2018年山陰中央新報社地域開発賞 表彰式

地域貢献活動 決意新た  (2018/10/23)

松尾倫男社長(右)から表彰状を受け取る斎藤晴子さん=松江市千鳥町、ホテル一畑

  島根県内の各分野で、長年にわたって地域社会の発展に尽くした人を顕彰する「山陰中央新報社地域開発賞」の表彰式が23日、松江市内であり、5賞6部門の受賞者がこれまでの取り組みを振り返り、受賞を機に活動の推進に向けて決意を新たにした。

 受賞者は、昌子裕さん(53)=スポーツ賞、出雲市斐川町学頭=、井上寛司さん(77)=文化賞、松江市西持田町=、松崎正さん(88)=教育賞、益田市遠田町=、天野明さん(70)=産業賞第1部門(農林畜水産)、江津市川平町南川上=、斎藤晴子さん(71)=産業賞第2部門(商工鉱・観光・建設)、浜田市上府町=、前野正代さん(78)=社会賞、島根県西ノ島町美田=の6人。

 表彰式で山陰中央新報社の松尾倫男社長が「長年、地道に取り組まれた活動に敬意を表したい。今後も明るい地域社会づくりに活躍をされるよう期待しています」とたたえた。

 続く祝賀会で、フィギュアスケートの普及・強化に力を注いだ昌子さんが「若い人にパワーをもらったからこそ続けられた」と感謝の言葉を述べた。島根大で歴史を教え、山陰の中世史研究に功績を残した井上さんは「研究成果をいかに地域に還元するかを考えてきた」と振り返った。

 農事組合法人を率い、農業の多角経営を進める天野さんは「力がある限り、古里の田畑を残すために活動したい」と強調。浜田市観光ボランティアガイドの会会長の斎藤さんは観光案内の口上を披露しながら「地域の誇りを大切にし、後進の育成に取り組みたい」と抱負を述べた。

 子どもの見守り活動を手掛ける前野さんは「受賞を励みに今後も地域のためにボランティアを続ける」と力強く語った。

2018年山陰中央新報社地域開発賞 受賞者の横顔

 山陰中央新報社が、島根県内の各分野で、地域社会の発展に貢献している人を表彰する「2018年山陰中央新報社地域開発賞」の表彰式が23日、松江市千鳥町のホテル一畑である。表彰に合わせて、スポーツ▽文化▽教育▽産業(第1部門・農林畜水産、第2部門・商工鉱・観光・建設)▽社会―の各賞を受賞する6人の功績と横顔を紹介する。

第63回スポーツ賞

スケート教室で子どもたちに指導する昌子裕さん=出雲市園町、湖遊館

県スケート連盟事務局長兼普及部長
  昌子  裕さん(53)

     =出雲市斐川町=

子どもの成長糧に指導

 スケートの季節がやって来た。10月上旬に今季の営業が始まった湖遊館(出雲市園町)。氷に膝を突きながら、子どもたちに丁寧にフィギュアスケートを教える姿があった。「指導する土日曜日は座っているのが食事をする時くらい」と笑う。

 斐川東中学校、出雲高校では吹奏楽部でホルンを吹いた。当時は女子選手として世界初のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を決めた伊藤みどりさんの全盛期。進学した岡山大でスポーツをしたいと考え、初心者ばかりだったフィギュアスケート部に入部した。

 「クラシックなど、いろんな曲を知っていてイメージが湧きやすかった。指導者になってからも、子どもに合う曲を編集するのに役立った」と吹奏楽部の経験が生きた。

 子どもたちの指導に携わるようになったのは、Uターンして島根県職員として働き始めてからだ。

 「初心者スケート教室」では、氷の上に立つことから始まり、歩いたり、前や後ろ向きで滑ったりと基礎を教える。「フィギュアスケート教室」では、初心者教室を体験した子らを対象に、選手として活動するクラブに進むためのレベルアップをサポートする。

 教室に通った子が冬季国体に出場し、今年2月の全国中学校大会では県勢初の入賞が出るなど、競技の普及、強化にとって、なくてはならない存在だ。

 「成長を見られるし、元気をもらえる」という小中高生との関わりの中で、小学生の時に不登校だった児童がスケート教室で自信をつけ、中学生になって学校に通い始めたという出来事があった。「運動神経が良くなくても、スケートだけはできるという子もいる。スケート教室が居場所となり、自信をつける姿を見るとうれしい」と実感する。

 広いリンクに立てば音楽がかかり、選手一人だけの世界。子どもが自分で判断し、考えて行動する力が必要になるため、「こうしなさい、ではなく、どうすればいいのか」と問い掛けるようにしている。

 指導を始めて30年。「教え子が就職で地元に帰り、後を継いでほしい」と願っている。

第57回文化賞

古文書を解読する井上寛司さん=松江市西川津町、島根大

県中世史研究会代表世話人
  井上 寛司さん(77)

     =松江市西持田町=

謎多き山陰の実態解明

 地域に残る多くの古文書を掘り起こしては読み込み、謎の多い山陰中世史の解明に生涯をささげてきた。文化財の保護や活用にも力を注ぎ、実証的な各自治体史の編さんにも数多く取り組む。受賞の報に「研究者として社会的責任を果たすという長年の目標が評価された」と感無量だ。

 1975年、島根大に着任。法文学部教授として中世史研究に注力した。中でも「諸国一宮(いちのみや)制」の研究は出色。諸国を代表する第一の神社「一宮」について、出雲国をベースに特徴や各国間の違いなど、20年にわたり検討を進めた。

 中世から近世にかけては神社と寺が同じ敷地内に存在する「神仏習合」が一般的だが、出雲国の独自の実態に研究者として着目。出雲大社と鰐淵寺が神社や寺院として独立しながらも、一部で機能分担もしていたことを明らかにした。

 文化財保護で忘れられないのが益田市の国史跡「三宅(みやけ)御土居(おどい)跡」。中世の豪族益田氏の居館だ。当時の古文書もよく残り、遺跡と文献で歴史を手厚く語ることができる貴重な遺産だ。

 これが道路建設で破壊の危機にさらされたため、89年から保存運動をけん引。毎週4時間かけて松江から通い、市民講座を開いたり、中央の専門家を招いたりした。行政はその結果、遺跡の保存へと方針転換。「正直保存を諦めかけた時もあった。ほかの研究者や市民と一体になったからこそ守れた」と振り返る。

 島根大着任当時から県内の各自治体史編さんが「全国的に見て大きく遅れている」と憂慮し、関わりを強めた。85年の大社町史を皮切りに、温泉津町誌、安来市誌など編集委員を歴任。2009年から現在も続く松江市史では、中世史編の執筆だけでなく、編さん事業の全体計画策定にも参画。古代から現代まで、全国に誇れる歴史遺産が豊富な県都にふさわしい構成に仕立てた。

 原動力は「地域の人に歴史を学ぶ楽しさを知ってほしい」という思い。「学ぶための条件を整えるのは専門家しかできないこと」と今も使命感を燃やす。

第52回教育賞

児童に稲刈りの手ほどきをする松崎正さん=益田市遠田町

放課後子ども教室代表
  松崎  正さん(88)

     =益田市遠田町=

「生きる力」育成に奮闘

 「子どもたちに自然と触れ合う機会を提供したい」との思いから、所有する休耕田を2002年に整備し、池や広場、動物小屋を設けて「メダカの学校」をオープンした。03年には地域住民と共に毎月1回開く「プレーパーク千鳥園」、05年には放課後の子どもたちの安全な居場所として「ボランティアハウス千鳥園」を立ち上げ、活動を発展させてきた。

 メダカの学校の開設は、安田小学校でボランティアを務め、農業を指導する中で、子どもたちが生き物に触れていないと感じ、「生きる力を育みたい」と思い立った。

 整備は当初、全くの独力で、くわやスコップを手に行った。奮闘する姿を見て、地元の自治会長らが手伝うようになり、地域を巻き込んだ子育ての輪が広がった。

 もともと農業に従事し、1967年から90年まで地元JAに勤務した。JA退職後に体調を崩し、山口県内の病院に入院した際、子どもたちが交流を楽しむプレーパークが近くにあったという。「元気になったら益田でも開きたい」と心に誓った。

 地元に開設したプレーパークでは、異なる年齢の子どもが地域住民と交流。「自分の責任で自由に遊ぶ」をモットーに自主性や主体性、コミュニケーション能力を育むもので、芋掘りやかるた、海遊びなどを実施し、これまでに182回を数える。

 さらに、放課後の子どもたちの安全・安心な居場所づくりにも尽力。プレーパークの敷地内に、ボランティアハウスを開いた。

 安田小児童100人が登録し、平日の午後3~5時に約40人が訪れ、大人たちが見守る中、遊具で遊んだり、宿題をしたりする。「外で走り回る方が、ゲームをするより良い」と目を細める。

 活動の根底には農業がある。安心安全な農作物を作り、食べることの大切さを伝えようと、安田小の体験活動「農業小学校」で、そばや大豆、米作りなどの指導も続けている。「子どもの健やかな成長につながればうれしい」と願う。

第52回産業賞 第1部門(農林畜水産)

収穫前のコメの出来栄えを確かめる天野明さん=江津市川平町

農事組合法人川平みどり組合長
  天野 明さん(70)

     =江津市川平町=

地域農業守るため尽力

 農家の高齢化や農産物価格の低迷で厳しい環境にある地域農業を守るため、農事組合法人の代表として水稲栽培の作業受託や加工品販売事業を推進する。人口減が加速するコミュニティーの維持に向け、伝統文化の継承活動にも携わるなど農村の将来を見据えた幅広い事業に取り組んでいる。

 生まれ育った江津市川平町では1988年、住民有志が川平町みどり農業振興組合を設立し、作業受託や共同乾燥施設の整備を展開したものの、高齢化や人口流出で96年から活動休止状態になった。耕作放棄地が増える中で、「このままでは人もいなくなる」との危機感から2004年、電気設備工事会社に勤めながら有志と同組合を復活させ、組合長に就任した。

 活動強化を目指して組織の法人化を決め、06年に会社を退職して、現在の農事組合法人川平みどりを発足させた。以来、「限界集落から『源快集落へ』」を合言葉に、農業の発展とともに、地域の活性化に取り組んでいる。

 法人では現在、高齢化などで担い手がいなくなった農地を集め、水稲21ヘクタール、大豆0・9ヘクタール、大麦若葉2・9ヘクタールなどを手掛ける。農地は川平町のほか、半径約10キロ圏内にある松川町や都治町など他地区からも引き受けている。

 地域の女性が活躍できる場をつくるため、組織内に加工部を設置。押し寿司(すし)や大豆を原料にした花林糖、野菜などを江津市内にある道の駅に出荷し、年間400万円程度の収入源に育てた。加工部の作業は60~70代の女性が担い、生きがいも創出している。

 一方、少子高齢化などで1950年代に1千人以上いた川平町の人口は、150人程度に減少。地域の伝統芸能の後継者も減る中で、田植えばやしや神楽の継承活動に中心的に関わり、コミュニティーの維持に力を尽くしている。

 地域農業の発展に向け、「今あるほ場をしっかりと管理し、後世に引き継ぎたい。気象環境が大きく変わっており、農作物の栽培や作業手順の見直しにも取り組みたい」と抱負を語る。

第52回産業賞 第2部門(商工鉱・観光・建設)

石見畳ケ浦資料館で、大自然が生み出した地形の魅力を解説する斎藤晴子さん=浜田市国分町

浜田市観光ボランティアガイドの会会長
  斎藤 晴子さん(71)

     =浜田市上府町=

浜田の歴史や魅力発信

 浜田城跡や国指定天然記念物「石見畳ケ浦」を案内する浜田市観光ボランティアガイドの会で17年の長きにわたり会長を務め、観光振興に力を尽くす。浜田の歴史に深い関心を持ち、観光客が喜ぶ姿を糧に活動を続ける。市内では今年、新たに観光ボランティア養成講座が始まった。「ガイドの会は、なくてはならない。活動をうまくバトンタッチできるようにしたい」と将来を見据えている。

 同市弥栄町出身。高校進学で京都に移り、社会人になってからは紡績メーカーに勤務した。22歳でUターンし、呉服店経営の傍ら、1994年から浜田商工会議所観光部会に所属。ガイドを始めたきっかけは、2000年に市観光協会が企画したガイド養成講座への参加だった。「昔から歴史や地理は嫌いではなく、浜田のことを知るのは悪くないと思い、参加したら、のめり込んだ」

 ガイドの会発足の記者会見直前、会長職に就く予定の会員が辞退を表明した。急きょ就任が決まり、「尻に火がつく思いで、急いで畳ケ浦の知識を頭にたたき込んで会見に臨んだ」と振り返る。今では、会の内外から信頼を得ている。

 長いガイド経験では、天候悪化や観光客が転倒するハプニングなど苦労も多かった。それでも「お客さんに喜んでもらいたい一心で活動している。現場を放り出したくなることはなかった」と笑顔を見せる。

 三重県松阪市と浜田市との交流では、ガイドの会が懸け橋になった。11年に、初代浜田藩主・古田重治が転封を命じられる前に治めていた松阪市を会員と共に訪れた。JR松阪駅を出ると、大きな駅鈴のモニュメントが目についた。「地元の人から『浜田藩から贈られたもの』と教えてもらい、驚いた」という。

 12代藩主の松平康定が松坂藩に立ち寄り、国学者本居宣長への土産に渡した駅鈴がモチーフになっていた。時代を超えてつながる縁。14年には「浜田市*松阪市友好の会」を設立し、松阪市での神楽公演も成功させた。「市民同士の相互交流を続けていきたい」と活動は広がりを増す。

第52回社会賞

浦郷署員と地域のことを語り合う前野正代さん=西ノ島町美田

浦郷署少年補導委員
  前野 正代さん(78)

     =西ノ島町=

安全な島づくりに貢献

 西ノ島町で長年、子どもたちを見守る活動に携わり、地域と警察との橋渡し役も担いながら安全で安心な島づくりに貢献している。「少年の健全育成を考えたとき、教育、子育てには地域の協力や支援が欠かせない。動ける限りは頑張りたい」と力を込める。

 隠岐の島町で生まれ、西ノ島町助役を務めた夫・忠教さん(86)との結婚を機に、同町に移り住んだ。

 明るく親しみやすい人柄で地域に溶け込み、1999年4月に警察の委嘱を受けて西ノ島町担当の少年補導委員になり、地域の防犯活動に関わり始めた。

 次第に活動の幅が広がり2006年から今年6月まで、浦郷署の駐在所連絡協議会「セーフティーさわやか活動西ノ島の会」の会員として、通学路の危険箇所点検などに力を注いだ。14年7月からは副会長も務めた。

 13年5月からは地元有志で結成した青色防犯パトロール隊「にしのしまあんしんまもり隊」のメンバーとなり、子どもたちへの声掛けなどに取り組んだ。夏には水難防止のため、海水浴場のパトロールにも参加。地域の子どものために奔走した約20年の日々を「家族の協力あってこそ」と振り返る。

 地域の子どもたちのことが頭を離れない。中には声掛けを重ねても、反応が鈍い子もいる。「地域社会になかなか溶け込めていないのだろうか。とても心配だ」。気に掛けている大人がいることを伝えようと、声を掛け続ける。

 少年補導委員として、非行防止にも取り組む。本土に比べ、非行は少ないと感じているが、「公になっていないこともあるはず。全くないとは言えない」と気を引き締める。

 活動を通して警察などとも親しくなり、高齢者を対象にした防犯講習の企画立案にも携わった。「ボランティア活動を通して町内全域、さまざまな人たちと関われた。友だちができたことが何よりの財産」と笑顔で話す。これからも地域で手を取り合って、子どもたちを見守るつもりだ。

2018年山陰中央新報社地域開発賞 選考委員(順不同、敬称略)

[第63回スポーツ賞]
島根大学名誉教授 久保田康毅
島根県教育委員会保健体育課長 佐藤 正範
島根県体育協会専務理事 安井 克久
島根県スポーツ推進委員協議会会長      森本 敏雄
島根県高校体育連盟会長 津森 敬次
島根県中学校体育連盟会長 岩田  靖
[第57回文化賞]
島根大学法文学部長 田中 則雄
島根県教育委員会教育長 新田 英夫
島根県市町村教育委員会連合会会長 槇野 信幸
島根県環境生活部長 松本 修吉
NHK松江放送局長 木村  靖
山陰中央テレビジョン放送会長 有澤  寛
[第52回教育賞]
島根大学教育学部長 加藤 寿朗
島根県教育委員会教育長 新田 英夫
島根県市町村教育委員会連合会会長 槇野 信幸
島根県高校PTA連合会会長 大屋 光宏
島根県PTA連合会会長 原  完次
島根県高校文化連盟会長 吉田 彰二
[第52回産業賞]
島根大学生物資源科学部長 井藤 和人
島根県農林水産部長 松浦 芳彦
島根県商工労働部長 新田 典利
島根県商工会議所連合会会頭 古瀬  誠
島根県商工会連合会会長 石飛 善和
島根県農業協同組合中央会会長 竹下 正幸
漁業協同組合JFしまね会長 岸   宏
[第52回社会賞]
島根大学名誉教授 猪野 郁子
島根県教育委員会教育長 新田 英夫
島根県環境生活部長 松本 修吉
島根県健康福祉部長 吉川 敏彦
島根県警察本部長 今村  剛
島根県社会福祉協議会会長 江口 博晴
島根県連合婦人会会長 田儀セツ子