2016年山陰中央新報社地域開発賞 表彰式

地域貢献 6人決意新た  (2016/10/29)

松尾倫男社長から表彰状を受け取る古瀬倶之さん(左)=松江市千鳥町、ホテル一畑

  島根県内の各分野で地域社会の発展に尽力、貢献した人を顕彰する2016年度山陰中央新報社地域開発賞の表彰式が28日、松江市内であり、5賞6部門の受賞者6人がこれまでの活動を振り返り、地域貢献に向けた決意を新たにした。

 受賞者は古瀬倶之さん(70)=スポーツ賞、出雲市稗原町▽原敏夫さん(88)=文化賞、大田市水上町▽錦織明さん(67)=教育賞、松江市雑賀町▽山本和正さん(63)=産業賞1部農林水産、出雲市知井宮町▽川崎徳幸さん(72)=同2部商工、安来市黒井田町▽石橋孝子さん(64)=社会賞、江津市二宮町。

 表彰式で、山陰中央新報社の松尾倫男社長が「長年励まれた功績に心から敬意を表します」とたたえ、表彰状を手渡した。

 自宅に卓球練習場を整備し、子どもの健全育成に力を注いだ古瀬さんは「今後も楽しく活動を続け、地域貢献したい」と述べ、県指定無形民俗文化財「シッカク踊」など郷土芸能を指導する原さんは「しっかりと民俗芸能を継承、保存していきたい」と強調した。

 地域の民話を題材にした紙芝居公演を手掛ける錦織さんは「出雲地方に残る素晴らしい神話と民話をアナログな方法で伝えたい」とし、会場で実演。故郷の山を愛し、良質な原木を生産する山本さんは「少しでもいい山にして次世代に渡したい」と決意を述べた。

 特殊鋼産業のアドバイザーとして顧客獲得や航空機産業への参入に携わる川崎さんは「島根には本物の製品があると伝えていきたい」と気持ちを新たにした。自宅の離れを子どもたちに開放し、放課後子ども教室を開く石橋さんは「今後も『おばちゃん、来たよ』との声を励みに頑張りたい」と笑顔で話した。

2016年山陰中央新報社地域開発賞 受賞者の横顔

 山陰中央新報社が、島根県内の各分野で、地域社会の発展に貢献している人を表彰する「2016年山陰中央新報社地域開発賞」の表彰式が28日、松江市千鳥町のホテル一畑である。表彰に合わせて▽スポーツ▽文化▽教育▽産業(第1部門・農林水産、第2部門・商工)▽社会-の各賞を受賞する6人の功績と横顔を紹介する。

第61回スポーツ賞

卓球を通じて地域の活力を生み、交流の輪を広げる古瀬倶之さん=出雲市稗原町

島根県卓球協会参与
  古瀬 倶之さん(70)

     =出雲市稗原町=

育成通じて故郷に活力

 郷里の出雲市稗原町で卓球を通じた子どもたちの健全育成、地域の活力づくりに尽くし、競技力向上に取り組んできた。今年新たに知的障害者の社会参加を後押しするスペシャルオリンピックスのコーチ資格を取り、衰えぬ意欲で障害者スポーツ普及にも取り組む。

 1997年から2012年まで毎年夏、全国各地の小学生が集まる卓球大会「白珊(はくさん)杯」を開いた「稗原クラブ」の会長。出雲市南部の山あいの会場、稗原小学校体育館は大会役員らを含め多い時には約500人で膨れ、人と熱気であふれる中、地域住民も生き生きと運営に当たった。

 稗原クラブは、1993年結成の稗原卓球スポーツ少年団が前身。その少年団の結成も、自ら旗振り役となった。地区の卓球同好会に参加したのがきっかけで、会員で資金を出し合って建てたプレハブの卓球場で「子どもたちに楽しさを伝えよう」と始めた卓球教室から始まった。

 祖父の代から開業医として地域に根差す家の生まれ。卓球に打ち込んだ鳥取大学医学部(米子市西町)時代、米子の卓球協会から遠征費援助のほか、悩みなどに対するさまざまな助言を受けた感謝と恩返しの気持ちも、86年の帰郷後の取り組みの原点にあった。

 子どもたちによりレベルの高い指導を受けさせようと、96年には卓球用具メーカーを通じて中国からプロコーチで、後に卓球大会の名称にもなる白珊さん(遼寧省出身)を招いた。移り住んだ白さんの指導で子どもたちは大きく成長。地区の児童減少に伴う2013年の解散までに、稗原クラブは何度も全国大会出場を果たし、08、09年の全国ホープス選抜大会では男子団体準優勝に輝いた。高校、大学で活躍し、指導者となった卒業生もいる。

 競技面で自身も県卓球協会の副会長、ジュニア支部強化委員長などを務め、多くの国体選手を育てた。今年はスペシャルオリンピックスのコーチ、専任ドクター資格を取った。「楽しく卓球ができる環境づくりをしたい」。痛い腰をさすりながらラケットを握り続ける。

第55回文化賞

編集を手掛けた冊子「水上町につたわる伝統芸能」を手にする原敏夫さん=大田市水上町

水上町郷土芸能保存会会長
  原  敏夫さん(88)

     =大田市水上町=

地域の民俗芸能を伝承

 大田市水上町に伝わる民俗芸能の伝承活動に力を注いでいる。1984年に水上町郷土芸能保存会に入って活動を進め、伝統芸能を紹介する冊子も製作。郷土を愛し、「伝統を地域全体で守っていく必要がある」と話す。

 水上町の住民でつくる同保存会に入ってから、島根県の無形民俗文化財「シッカク踊り」や、大田市無形民俗文化財「水上花田植」などの伝統行事の運営に奔走。1992年4月から2013年3月まで同保存会の会長を務めた。

 シッカク踊りは、毎年10月に同町の水上神社の例大祭で奉納される。本番に向けて10回程度練習を行い、中心となって地元の児童を指導。水上花田植では1994年、2003年、06年、10年に実行委員会の実行委員長を務め、全体の取りまとめ役として開催に尽力した。

 伝承活動を続ける中で、シッカク踊りは1987年に島根県の無形民俗文化財に、水上花田植は94年に大田市無形民俗文化財に、それぞれ指定された。「ありがたいことで、うれしかった」と振り返る。97年には出雲、松江両市を会場に開かれた「地域伝統芸能全国フェスティバル」に同保存会が出演してシッカク踊りを披露。多くの人に伝統芸能の良さを伝えられたことは印象深い思い出だ。

 2003年に発行した冊子「水上町につたわる伝統芸能」の編集も手掛けた。「少子化などで、伝統的な文化を子どもたちに継承する機会が少なくなるのではないか」。将来を見据えて冊子製作に取り組み、シッカク踊りで使う道具などをイラストで入れながら、拍子の取り方なども分かりやすくまとめた。地域に伝わる資料や言い伝えなどを調べてまとめた「みなかみの歴史」を14年に発刊するなど精力的な活動は多岐にわたる。

 郷土芸能の保存・継承、歴史の検証・研究の取り組みは、地域のまとまりや魅力の再発見につながる。「今日まで伝承されてきた文化は貴重な財産。後世に引き継ぐため、できる限り頑張りたい」と思いを新たにしている。

第50回教育賞

紙芝居を上演する錦織明さん=松江市比津町、比津なごみの郷

出雲かんべの里館長
  錦織  明さん(67)

     =松江市雑賀町=

紙芝居で伝える郷土愛

 島根県内の小学校で37年間勤務し、故郷の松江を題材にした紙芝居を教育に取り入れ、子どもたちの郷土愛を育んだ。退職した現在も「ふるさとの良さ、自然を大切にする思いを生の声で伝え続けたい」と年間50回以上、公演を手掛ける。

 小学生時の原体験が紙芝居を教育に取り入れた背景にある。テレビが自宅になかった当時、一番の楽しみだった。紙芝居屋さんが自転車を引いて町中に来ると、手に5円を握り締めて夢中で見に行った。自作するほど特別な愛着があったという。

 広島大教育学部を卒業し小学校教師の道を選択。実践教育を理念に掲げ、体験型授業の展開に努めた。紙芝居に対する思いが再燃したのは、校長として松江市立津田小学校に赴任した2004年。「ふと子どもの頃の記憶が頭に浮かんだ」のがきっかけだった。

 松江ゆかりの文豪・小泉八雲の没後100周年に合わせ、怪談「飴(あめ)を買う女」の紙芝居を制作。図書委員の児童と一緒に畳1枚分の大きさに仕立て、全校朝礼で披露した。

 最初は喜ぶかどうか心配だったが、想像を膨らませて興味深く聴き入る姿を目の当たりにし「紙芝居には『夢』があると感じた」。以後、松江城に植わるなんじゃもんじゃの木や、地元ゆかりの昔話を作品化し、学校教育に取り入れた。

 2008年には県小学校長会長を務め、図書館教育に尽力。県内全小学校への図書館司書配置に一役買った。

 12年からは文化体験施設・出雲かんべの里(松江市大庭町)の館長に就き、市内の各施設を巡って公演する。こだわる理由は「デジタル文化へのレジスタンス(抵抗)」。デジタル化で生活が便利になった半面、人間関係が希薄になってしまったのではとの危機感からだ。紙芝居は語り手の表情、息遣いを感じ、人と人が対面でつながりを実感できる手法と捉える。

 憧れる人物は八雲という。島根を愛し、古来の文化や考え方を重んじた先人に思いをはせ「古き良きものや、自然を大切にする心を持ち続けたい」と誓う。

第50回産業賞 第1部門(農林水産)

チェーンソーを使って丸太を切る山本和正さん=出雲市湖陵町畑村

島根県林業経営者協会副会長
  山本 和正さん(63)

     =出雲市知井宮町=

山愛し良質な原木生産

 1979年10月に家業を継ぎ、林業一筋に取り組む。所有する山林は出雲市内の70カ所、計307ヘクタールに上る。林業を取り巻く厳しい環境の中でも、古里の山を愛し、良質な原木の生産にこだわり、実践してきた。自ら手入れした山林を研修や見学の場として提供し、技術や経営を指導するなど、担い手の育成にも力を入れている。

 岐阜県の林業会社で技術を学んだ後、26歳でUターンし、社長に就いた。矢先に、松くい虫の被害がまん延した。住宅建築材に使われる高級材として知られていた出雲地方のアカマツがやられた。自らの山も例外ではなかった。

 林業家や専門家の多くは防除の考えを示したが、所有する山の広さを考えると、山林全体を被害から守るのは難しい。「使えるアカマツは切って使い、ゼロから始めた方がいいのではないか」。アカマツの保護を断念し、樹種転換した。

 この経験が、自ら山に入り、生産する原点になった。翌年の80年から20年間、年間約2ヘクタールずつアカマツを伐採し、代わりにヒノキやスギを植えた。皆伐を控えて間伐を主体にし、将来残す優良な木を1ヘクタール当たり300~400本と設定。成長具合を見極め、枝打ちや間伐を繰り返した。

 木材価格が低迷する中、作業の効率化を図るため、伐採した木を山から搬出するための運搬車が通れる幅約2メートルの作業路を、毎年2千メートルずつ整備した。

 「年中、山にいる」と話すように、山の保護、林業振興に秘めた思いは人一倍だ。島根県青年林業士や同県指導林家を務め、「自ら木材を生産できる仲間を増やしたい」と、約20年前から研修や見学の場を提供し、林業を志す人や若手林業家への指導、アドバイスをする。

 「100年の森造り」という次世代に残る山林の育成を目標に掲げ、育てた木は市場で評価され、喜びと成果を実感する。「5年、10年では魅力が分からなかったが、山への愛着がわき、やめられない。これからも植え付けや手入れなどを愚直にするだけだ」。信念は揺るがない。

第50回産業賞 第2部門(商工)

スサノオの事務局を置く安来商工会議所で打ち合わせをする川崎徳幸さん=安来市安来町

安来商工会議所事業推進アドバイザー
  川崎 徳幸さん(72)

     =安来市黒井田町=

特殊鋼産業振興に心血

 高級特殊鋼を生産する日立金属安来工場(安来市安来町)のOBで、安来商工会議所で「特殊鋼産業クラスター高度化推進事業」の事業推進アドバイザーを務める。航空機産業など成長分野への企業参入を支援。基幹の特殊鋼関連産業の振興に心血を注ぐ。

 鳥取県北栄町出身。倉吉東高校を卒業後、1963年に日立金属安来工場に入社し、主に製造部門に作業行程を指示する生産管理を担当した。定年後は嘱託社員として、協力会社への発注や生産管理の指導を通じ、連携強化と信頼関係の構築に努めた。「生産管理は工場の営業窓口。全国の顧客との人脈が今の仕事にも生きている」と話す。

 2009年4月から安来商工会議所の産業振興アドバイザーとして、企業の新規顧客の開拓などを支援。15年4月に事業推進アドバイザーに就いた。

 松江、安来両市の特殊鋼関連7社でつくる航空機産業分野の共同受注体「SUSANOO(スサノオ)」で、構想段階から企業や島根県、国との調整に尽力。事務局長を務め、企業の相談を受ける。

 目標とする航空機部品の共同受注はまだだが、技術力が注目され、他分野で新規受注した企業もある。「波及効果が出てきた。特殊鋼の生産から加工まで一貫してできる地域の強みを生かしたい」と語る。

 次世代を担う人材の育成も図る。15年に松江高専の教育コーディネーターになり、スサノオの構成企業による出前事業や工場見学を企画した。「安来市をはじめ、県内企業へ就職を希望する学生が増えてきた」と手応えを感じている。

 日本古来の製鉄技術、たたら製鉄の造詣が深い。国内で唯一、たたら製鉄を営む日刀保たたら(島根県奥出雲町大呂)で03年から12年間、見学者に対応した。和鋼博物館や日刀保たたらを訪れて知識を深め「特殊鋼に代表されるハガネのまち・安来の礎を築いたのがたたら製鉄で、日本のものづくりの原点だと改めて実感した」。たたらは4月に日本遺産に認定された。「古来のたたら製鉄から現在の特殊鋼へと続く物語を伝えたい」と意気込む。

第50回社会賞

宿題をする児童の質問に笑顔で答える石橋孝子さん=江津市二宮町、二宮集いの家

放課後子ども教室「二宮集いの家」代表
  石橋 孝子さん(64)

     =江津市二宮町=

児童の成長に寄り添う

 新しい住宅が多く立ち並ぶ江津市二宮町にある自宅の離れを、共働き家庭の児童の放課後の居場所「二宮集いの家」として12年間にわたって開放し、青少年の健全育成に力を注いできた。地元ボランティアスタッフ5人とともに、地域の子どもたちの成長を温かく見守っている。

 子育てや両親の介護がひと段落した2000年、少年補導委員に委嘱されたのを機に、約30畳の離れを月1回開放し、地域の子どもと大人が料理や陶芸、軽スポーツなどで交流する「お楽しみ会」を開催。これまでに約160回実施し、今も続けている。

 活動の中で、会に参加する子どもの多くが核家族世帯の共働き家庭で、放課後に自宅で一人過ごしていることを知り、04年に「子どもたちに寂しい思いをさせたくない」と、集いの家を開設した。当初は週3日の開放だったが、自主性を育み、気配りを欠かさず、悪さをした時には厳しく指導する「石橋のおばちゃん」を慕って、児童が毎日訪れるようになり、07年、放課後子ども教室「二宮集いの家」として週5日に拡大した。

 現在、近くの津宮小学校の児童約40人が登録し、利用は無料。毎日午後3時を過ぎると、子どもたちが「帰りました」と元気な声を響かせ、次々に離れに集まる。宿題や遊びに付き合ったり、時にはけんかの仲裁をしたりと多忙な日々を送るが、「こちらが子どもたちに元気をもらっている」と柔和な笑顔で語る。

 社会活動にも積極参加。地域の清掃活動や高齢者施設訪問、警察の交通安全や犯罪被害防止の街頭啓発活動への協力など、年10回以上の奉仕活動に子どもたちと一緒に取り組む。

 自宅近くの通学路に毎朝立ち、小中学生に声を掛ける「あいさつ運動」も16年間続けている。様子がおかしい子を見掛けると学校まで付き添い、道中に抱えている悩みを聞く。保護者からの相談にも親身に対応し、地域住民や学校、行政機関からの信頼は厚い。

 「1人でも必要としてくれる子がいる限り、取り組みを続けたい」。子どもたちへの愛情は尽きない。

2016年山陰中央新報社地域開発賞 選考委員(順不同、敬称略)

[第61回スポーツ賞]
島根大学名誉教授 久保田康毅
島根県教育庁保健体育課長 佐藤 正範
島根県体育協会専務理事 下岡 博司
島根県スポーツ推進委員協議会会長      森本 敏雄
島根県高校体育連盟会長 長野  博
島根県中学校体育連盟会長 岩田  靖雄
[第55回文化賞]
島根大学法文学部長 田坂 郁夫
島根県教育委員会教育長 鴨木  朗
島根県市町村教育委員会連合会会長 清水 伸夫
島根県環境生活部長 犬丸  淳
NHK松江放送局長 木村  靖
山陰中央テレビジョン放送会長 有澤  寛
[第50回教育賞]
島根大学教育学部長 小川  巌
島根県教育委員会教育長 鴨木  朗
島根県市町村教育委員会連合会会長 清水 伸夫
島根県高校PTA連合会会長 大屋 光宏
島根県PTA連合会会長 佐々木 功
島根県高校文化連盟会長 大賀美周作
[第50回産業賞]
島根大学生物資源科学部長 澤  嘉弘
島根県農林水産部長 坂本 延久
島根県商工労働部長 安井 克久
島根県商工会議所連合会会頭 古瀬  誠
島根県商工会連合会会長 石飛 善和
島根県農業協同組合中央会会長 竹下 正幸
漁業協同組合JFしまね会長 岸   宏
[第50回社会賞]
島根大学名誉教授 猪野 郁子
島根県教育委員会教育長 鴨木  朗
島根県環境生活部長 犬丸  淳
島根県健康福祉部長 藤間 博之
島根県警察本部長 米村  猛
島根県社会福祉協議会会長 江口 博晴
島根県連合婦人会会長 田儀セツ子