インドの風
インドの風(1)

【インド人はみんなターバン巻いてる?】

 このコーナーは、協会発足を縁にご協力をいただいているインド在住の島根、鳥取県人会の皆様からの情報を紹介します。日本人が知らない様々なインドの素顔…最初に寄稿していただくのは、出雲市出身の周藤孝夫さん(文、写真)です。


 インドといえば、最初に思い浮べるのは貧困、灼熱、ターバン、カレーなどでしょう。しかし、実際インドで生活すると、日本人の「インド常識」には間違いが多いことに気づきます。「ええっ! ほんと?」と思うようなことをいくつか紹介しながら、インドの素顔、姿を紹介します。

ターバン姿のシーク教指導者

 インド人はみんなターバンを巻いていると勘違いしている日本人は多くいます。確かにシン首相をテレビや新聞でよく見かけますが、そのターバン姿が印象的ですね。色も黒、青、赤などたくさんあります。実は、このターバン姿の人はシーク教徒の男性だけです。そのシーク教徒はインド全体でわずか1.9%しかいません。しかも女性はターバンをしないのでターバンをしているインド人は全体の1%にも満たないでしょう。といっても人口12億人のインドのことですから、その数は決して少なくありません。

 シーク教徒は一般的に裕福で、体の大きい人が多く、ターバン姿が目立つのでしょう。確かにロンドン市内で見かけるターバン姿のインド商人などはかっぷくが良く、目立ちますね。

 実はそのシーク教徒は宗教上の理由で、生まれてから死ぬまでひげや髪の毛を決して刃物で切らないそうです。長くなった髪をあのターバンの中で巻いているのです。さぞかし、ひげや髪の手入れは大変だろうと想像できます。そのため、最近ではターバンを嫌う若者が多くなり、今後ますます少数になっていくのだろうと思います。

 <プロフィール> すとう・たかお=出雲市出身。欧米で11年暮らし、現在は川崎重工(株)デリー事務所長として駐在3年目。趣味はテニス、写真、音楽。

インドの風(2)

【貧困の国インド?】

 

インド最大の自動車会社TATAモーターズは2008年、高級車ジャガーを買収した

 インドといえば「貧困」が不名誉な代名詞にもなっています。インド政府の今年の調査によれば、貧困層は急速に減少しているものの、依然として人口の21.9%もいます。ニューデリーやムンバイなどでは、目を覆いたくなるようなスラム街で、学校に行かず物ごいをしている子どもが多くいるのは事実です。ここでいう貧困層とは1日の支出が地方で27ルピー(約44円)、都市部で33ルピー(約54円)以下と定義されています。

 ところが、別の角度から見ると、違ったインドが見えます。歴史的にみてもインドは古くはインダス文明が栄え、つい17〜18世紀まではGDP(国内国民総生産)が世界一だったのです。今は日本が世界第3位の経済大国ですが、インド5000年の歴史の中で、日本がインドより裕福になった時代はごく最近のことなのです。そして、今から数十年後にはインドは再び、日本やアメリカのGDPを抜くと予測されています。

 現在に目を転じても「貧困」を疑いたくなります。世界で最も金を輸入しているのはインドで、街中でも運転手付きの高級自動車をよく見かけます。昨年10月に自社販売に切り替えたポルシェは、最初の月だけで117台を販売したというから驚きです。最近の経済発展で急速に増えている超富裕層は、ほんの一握りの人たちですが、人口12億人ですから絶対数は決して少なくありません。カースト制度が今なお残るインドでは貧富の差が大きいこともありますが、インドを単純に「貧困国」と決めつけられないでしょう。(出雲市出身、周藤孝夫)

インドの風(3)

【インド式商法】

 

市場の八百屋で

 インドの市場では野菜、果物、魚介類、肉類などを外国人は2〜3倍の値段で買わされることが多くあります。それでも日本の物価と比べて格段に安いので、日本人はあまり気にもかけず買ってしまいます。これは外国人には高く売りつけるインド式商法で、だまされたと思うこともしばしばです。

 しかし、実はインド人の考えは少し違います。インドでは一般的に「お金持ちは貧乏人にお金を恵んでやるのは当たり前だ」という考え方があります。そのため、何かを売る場合、相手が金持ちと見るや、数倍の値段で売りつけることは悪いことではないと考えているようです。いわば自由経済と大きな貧富格差の中で生まれた「富の再配分」ともいえます。法的にも、売り手が価格を提示して、買い手が納得して購入したのだから、契約に違法性はないのです。

 その結果、インドの市場では現地人と外国人との「二重価格」が堂々と成立しています。この不透明な販売価格を避けるためにも、パッケージ商品には最大小売価格(MRP)が印刷されていて、小売業者が勝手に高く売りつけることはできなくなっています。しかし、価格をパッケージに印刷できない商品は、二重価格が後を絶たないのが現状です。

 野菜ならともかく、数万円もする絨毯のような高級品をディスカウントしてもらって買って、後でインド人の知り合いに「それは通常より3〜4倍高いよ」と指摘されたら腹立たしい限りです。一番いいのはインド人の友達と一緒に買い物に行くことですが、それができないときもあるでしょう。そんなときは、物の相場を知ることが大切です。高すぎると思ったら「ノー・サンキュー」と言って毅然とした態度で立ち去ると、後から追いかけて来て、半額でOKというインド商人も多くいます。そんなインド式商法の交渉もゲーム感覚でできると楽しいインド生活が送れます。 (出雲市出身、周藤孝夫)

インドの風(4)

【男社会のインド】

 

男性店員だけのカフェ

 インドでは女性が働いている姿をあまり多く見かけません。レストランの給仕、スーパーや喫茶店の店員など、ほぼ全員男性です。美容室の店員ですら全員男性の所があります。女性の職業といえば、学校の先生、会社の受付嬢、ブティック店員、スチュワーデスなどです。これはカースト制度や男尊女卑の風習がいまだに残っているためです。実際、昼間の町でも一人歩きの女性はほとんど見かけません。喫茶店や映画館も女性一人で入ることはありません。周囲の目があるからでしょう。だたし、中東のイスラム国で女性の権利や自由が厳しく制限されているのとはまったく違い、民主主義国のインドでは男女平等で職業選択の自由もあります。しかし現実には、民間企業や政府機関では女性管理職はほとんどいません。

 まさにインドは男性偏重社会で、まるで戦前の日本だという人もいます。実は、教育からみると男女差は大きくありません。大学進学率(平均11%)は先進国と比較するとかなり低いのですが、男性12.4%、女性9.1%で、男女間の格差は大きくありません。働いている女性は結婚や出産のため会社を退職する女性が多くいます。裕福な家庭はメイドを雇っていますので、働こうと思えば職場復帰もできるでしょうが、家族を大切にするからでしょうか。

 そのような男社会でも、活躍している女性は多くいます。例えば、現在の与党コングレス党の党首ソニア・ガンディーは女性です。以前16年間も首相を務めインディラ・ガンディーや第12代大統領プラティバ・パティルも女性でした。日本では首相を勤めた女性はいませんから、その意味ではインドには女性進出の素地はあると見るべきでしょう。しかし、多様性の国とはいえ、インド社会の仕組みが変わるには相当の年数がかかるでしょう。(出雲市出身、周藤孝夫)

インドの風(5)

【宗教と食文化】

 インドといえば仏教発祥の国。さぞかし仏教が盛んだろうと思いきや、実は仏教徒は全体のわずか0.8%しかいないのです。多いのはヒンドゥー教(81%)とイスラム教(13%)で、その他にもキリスト教、シーク教、ジャイナ教、ゾロアスター教など、実に多くの宗教が存在します。ヒンドゥー教は多神教で、有名なシバ神やヴィシュヌ神などは赤や黄色などのカラフルな色で描かれています。また、ガネーシャに至っては頭が象になっていて漫画チックです。もちろん、インドの神聖な神様を「しまねっこ」や「鳥ピー」など、ゆるキャラと同列で比較してはいけないでしょうが、ついそうしたくなります。

 当然のことですが、宗教によってそれぞれ偶像、儀式、風俗習慣が違います。その中でも私たちが最も目にするものは食生活でしょう。「不殺生」を説くヒンドゥー教やジャイナ教の信者には、菜食主義者が非常に多くいます。欧米の菜食主義のように健康のためではなく、殺生を禁ずる宗教上の理由から肉を食べないのです。従って、レストランのメニューでも緑のマークの菜食(ベジ)と赤丸マークの肉食(ノン・ベジ)が分けて表示されています。また、スーパなどの食品のパッケージにも同じようなマークが印刷されていて、肉を使用しているかどうかが消費者に分かるようになっています。もちろん、菜食主義者ではないヒンドゥー教徒もいますが、それでも「神聖なる牛」は絶対に口にしません。

ビュッフェでも菜食は青マル、肉食は赤マルで表示

 牛を食べないヒンドゥー教徒と、豚を口にしないイスラム教徒を足すと全人口の94%になるインドでは、肉といえばもっぱら鶏肉です。マグドナルドでも牛を使ったハンバーガーは存在せず、インド市場向けに特別に開発したチキン・バーガーを販売しています。
 (出雲市出身、周藤孝夫)

インドの風(6)

【カースト制度】

 カースト制度は紀元前13世紀ごろ、北西から来たアーリア人が作った身分制度ですが、今なおインド社会に影響を与えています。カーストはバラモン、クシャトリア、ヴァイシャ、シュードラの四姓に区分され、カースト外にはダリット(不可触民)があります。各階級は、さらに2〜3千のジャーティー(職業)に分かれていて、とても複雑です。各職業は世襲され、家業として代々受け継がれますので、下層階級の人々はなかなか底辺から抜け出すことができないのです。また、違うカースト間の結婚はほとんど不可能です。異なるカースト間の結婚話があると、上位カーストの親が下位カーストの結婚相手を殺してしまうという事件すらあります。

 ヒンドゥー教では、「現世で功徳を積めば、来世ではよいカーストに生まれ変わることができる」という輪廻転生の思想があり、今の自分の置かれた立場を受け入れて精進せよと教えています。上位階級の支配者層は長い間、カースト制度を利用して自分たちの地位や社会秩序を保ってきた側面があります。

 しかし、カースト制度は人種差別につながるため、1950年に制定した憲法でカースト制度を全面禁止にしました。ただ、今もなお社会に根強く残っているため、インド政府も色々な施策を進めてきました。例えば、大学入学や公務員採用で下層階級に一定割合を割り当てています。第11代のナラヤン大統領は不可触民の出身でした。また、産業界からも変化が見られます。IT技術者など過去にない職業では、カーストの階層に関係なく優秀なエンジニアが高い給与で職を得て、富裕層の仲間に加わっている人もいます。一方、外国企業は出自に関係なくインド人を採用し、昇給・昇進も能力主義で行っています。我々日本人がインドで仕事をする上では、差別発言に気を付けて、公平な態度を取っていれば、大きな問題は起きないでしょう。(出雲市出身、周藤孝夫)

(4段階のカーストとカースト外の不可触民)
インドの風(7)

【インド英語】

 インド人はみな英語が上手だと思っている日本人は多くいます。事実、日本人駐在員が面談する機会の多いインテリ層のインド人は間違いなく英語が堪能です。でも、街中で出会うインド人は英語が話せない人も多くいます。オートリキシャ(エンジン付三輪タクシー)の運転手など簡単な英語しか話せません。また、英語とヒンディー語のチャンポンで話している人もたくさんいます。インドには公用語だけでも22あり、ヒンディー語が最も多く話されています。一方、英語は準公用語ですが、ビジネスの世界では事実上の公用語です。インド人の英語上手な理由はその教育環境にあります。良家の子女はほとんど私立学校に行き、英語で授業を受けています。学校では英語、自宅ではヒンディー語とバイリンガル環境で育っているのです。ただ、先生はみんなインド人で、ヒンディー語の影響を強く受けた癖のあるインド英語で教えるため、生徒も自然とインドなまりの強い発音になってしまいます。

 日本人が苦労するのは、その独特のインド英語です。英語にかなり自信のある人も相当苦労しているようです。分かりにくい原因は、やはりヒンディー語の影響を強く受けた独特の発音と平坦なイントネーション、そして異常なまでの早口でしょう。特に困るのは、こちらが分かろうが分かるまいが、お構いなしに早口でまくし立てる人が多くいます。それも子どもの時からの教育でしょう。小学校の時からクラスでは発表や討論も頻繁にあり、子どもたちは積極的な発言をするよう指導されています。もちろん英語です。寡黙な日本人とは対照的です。国際会議で難しいのは「インド人を黙らせることと、日本人をしゃべらせること」といいますが、まさにその通りです。



国際会議では癖のあるインド英語は少ない

 ただし、誤解を避けるために言い添えますが、官・民・学を問わず、インドのインテリ層は英米に留学した人も多く、とても立派な英語を話す人が多くいることも事実です。
  (出雲市出身、周藤孝夫) 

インドの風(8)

【インドで凍死?】

 インドは暑い国というのが、私たちの一致した常識でしょう。私が住んでいる首都ニューデリーでは、夏(4〜5月)は気温が45、6度にもなります。外に出たとたんに熱風が襲いかかり、直射日光の下では5分も歩けないほどです。熱中症対策の水は欠かせません。湿度が低いのがせめてもの救いですが、まさに灼熱(しゃくねつ)の大地です。ところが、冬(1〜2月)になると気温は3、4度まで下がります。デリーで今年1月には100人以上が凍死しています。ええっ!? と最初は耳を疑いましたが、有力全国新聞 Times of Indiaの報道ですので間違いではないでしょう。ニューデリーなど首都圏では路上生活者が多く、十分な着る物やシェルターもないので、体力のない子どもや老人が凍死するのです。

 私自身もニューデリーの冬を2回経験して寒さが身にしみ、今度は3回目の冬を迎えようとしています。冬は暖房器具を使っても十分暖かくならないため、家の中でもオーバーを着込んでいるとインド人が言っていたのは、冗談ではなく、まったく本当の話でした。



ニューデリーの冬の朝、チャイで寒さをしのぐ労働者たち

 しかし、インドは日本の国土の9倍もある大きな国です。インド最北のヒマラヤに近い山岳地帯では、冬は零下になり雪も多く降ります。一方、チェンマイやバンガロールなど南インドに行けば、冬でも結構暖かいのです。北インドに位置するニューデリーの夏は「灼熱のインド」そのものですが、冬は「厳寒のインド」です。インド人の肌の黒さから、インドは暑い国という間違ったイメージが日本人に定着しているかもしれません。

 冬に北インドへ旅行や出張をされる方は、セーターやジャンパーをお忘れなく。
  (出雲市出身、周藤孝夫)