ふるさとの明日を考える 〜道路問題と島根の未来
パネルディスカッション
パネルディスカッション

東京大学大学院情報学環
教授 大石 久和氏
おおいし・ひさかず/1945年生まれ。京大大学院修了後建設省(現国土交通省)入省。道路局長、技監などを歴任。昨年2月から現職。国土技術研究センター理事長、早稲田大客員教授も務める。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)
執行役員 久保田 章市氏
くぼた・しょういち/1951年、浜田市生まれ。浜田高校、東大を経て50年に三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。本部の部長・室長、支店長などを歴任。4月から法政大学大学院客員教授も務める。

共同通信社
編集委員 鎌田 司氏
かまた・つかさ/1949年生まれ。共同通信で主に建設省、自治省(現総務省)など行政取材を担当。昨年4月からの年間企画「地方自治−戦後の軌跡」を取材した。初任地は松江支局。

島根経済同友会
代表幹事 宮脇 和秀氏
みやわき・かずひで/1949年大田市生まれ。松江南高、慶応大学を経て富士ゼロックス入社。神戸支店長などを歴任。60年退社し、(株)ミック設立と同時に代表取締役専務、平成9年から社長。

島根県知事 澄田 信義氏
すみた・のぶよし/1935年出雲市生まれ。出雲高校、東大法学部を経て、32年旧国鉄に入社。新幹線総局次長、和歌山県警本部長、国鉄常務理事を歴任。62年島根県知事に初当選し、現在5期目。

コーディネーター
山陰中央新報社論説委員長
松本 英史氏
 松本 まず澄田知事に島根県の道路の現状をご紹介いただきたい。

 澄田 東西230キロと長い島根県には、東西を結ぶ幹線が国道9号しかない。自動車利用率は、東京の31・2パーセントに対し、島根は97・8パーセントと、移動手段はほとんど自動車に頼っている。ところが、県内の高速道路整備率は47パーセントと、全国平均の69パーセントを大幅に下回っている。

 人口減少の時代を迎え、自立する地方の形成が求められている。議論盛んな道州制についても、道州の中心地と今の県庁所在地や主要都市が高速道路で結ばれていなければ、道州の自立・地域内連携は絵にかいたもちに過ぎない。高速道路は、国土政策として国が整備すべき最低限のインフラだ。

 松本 国道9号はトンネルが狭く、コンテナを積んだトラックは通れない。災害が起こっても、う回路はないというのが現状。地元経済界としても、大きな不満を感じているのではないか。

 宮脇 地方分権の時代と言われるが、その基本インフラが地方にはない。この状況で自立しろと言うのは、子どもに金も食料も与えずに、いきなり明日から自炊しろと言っているようなものだ。中でも一番大切なのは道路だ。自然、観光、産業といった資源を、道路というネットワークで結んでこそ産業を振興できる。

 石見銀山が来年、世界遺産に登録される見込みだが、高速道路がなければ多くの人は来てくれない。山陰道全線の建設は、県民に夢と励みを与えてくれる。

 松本 久保田さんは浜田の出身で、鎌田さんは30年ぶりに初任地に来られた。道路事情について感想うかがいたい。

 久保田 今回久々に浜田から松江まで車で走った。一言で言って遠い。3時間あれば、東京なら浜松あたりまで行ってしまう。しかもトンネルは幅が狭く、すれ違うのも怖い。まだまだだな、と実感した。

 鎌田 今回約30年ぶりに島根を訪れて、1970年代後半に比べ、出雲部では一部に自動車専用道路が整備されるなど、道は随分よくなっていると感じた。しかし石見部では、国道9号が生活道路と幹線道の二役を果たしている。かなり負荷が大きい。

 松本 2月の国土開発幹線自動車道建設会議(国幹会議)で山陰道の宍道−出雲間が新会社に引き継がれ、ひとまず胸をなで下ろした。今回の会議の決定内容を、どう分析をしているか。

 大石 会議では、どの区間を、どういうタイミングで整備するかのスキームについて、現地の事情、資金調達方法などを勘案しながら淡々と整理した。公共事業として国が直轄で高速道路を建設するのは初めてのことなので、地元負担との兼ね合いなどからペンディングになった個所もあるが、(決まった部分の整備については)今後スムーズに進むと思う。

    ◇     ◇

 松本 中央では「日本の道路整備は完了した」という識者もいて、地方に住むものとして腹立たしく感じる。都市と地方の道路の格差についてどう考えるか。

 宮脇 道路がないことの切実感はそこで暮らしている人でないと、分からない。通信網に例えれば、山陰の道路はアナログ。光ファイバーがほしいと言っているのではない。せめてADSL程度のものが一本ほしいと切望しているだけだ。

 松本 「格差は悪いことではない」とか、「地方対都市」など、小泉首相の論調を聞いていると、地域間格差を認めているように聞こえる。小泉政権は世論を見方にして物事を動かしており、東京発のマスコミもその論調に乗っているように思える。地方にはつらい。

 鎌田 首相には、これまでの平等主義から脱却し、競争があってもいいという考えがあるのだろう。しかし、機会均等が保証され、道路も均等に整備されているのが前提だが、実はそうなっていない。東京のマスコミは財務省発の情報がかなり多く、財政再建のプロパガンダが強い。自戒の必要も感じているが、地方の切実感が分かりづらい。

 大石 私ももどかしさを痛感している。例えば、テレビに出てくるコメンテーターや評論家はすべて東京住まい。そこでの経験や実感から発言する。明治時代のインフラ整備は、統一国家としての国家観という考えがあったが、今はそれが欠けている。東京の生活実感だけで物事が進むというのは、たいへん危惧される状況だ。

 松本 道路特定財源の一般財源化問題について知事のお考えを聞きたい。

 澄田 先般、中国5県の経済界の人が、高速道路の関係で東京に陳情に出掛けた際に「日本海側の高速道路はとっくにできているんじゃないか」と有識者から言われ、がくぜんとしたそうだ。山陰道の宍道−出雲間18キロは新会社に引き継がれたが、出雲以西の74キロは不透明なままだ。その中で道路特定財源の一般財源化などもってのほか。そうした議論をする前に、未整備のまま残っている法定予定路線(1万1520キロ)の未整備部分を、いつまでにどういう手法で整備するのかのビジョンを先に示すべきだ。

 道路特定財源が余っているように見えるが、実はシーリングによって道路整備に充当できなくなっているだけ。国が使えないのであれば、真に道路整備が必要な地域に、必要な財源が回せるやり方で、道路特定財源を全額使うべきだということを強く訴えたい。

 松本 道路整備は国家的な戦略から整備するものということで、皆さんの意見は一致している。では、それを訴えるために、具体的にどういう視点があるかということを考えてみたい。

 久保田 このところ、道路問題が議論される際、すぐに採算性だとか、償還まで何年かかるとかが議論される。道路問題は、水や電気と同じく生活や産業を支える社会インフラという視点で語られるべきだ。

 さらに、製造業がどんどん海外進出している。それは人件費だけでなく、日本の物流コストが高いということも大きな要因になっている。国際競争力を高めるためにも道路網を整備し、通行料を安くして、物流コストを下げる必要がある。それによって、海外進出した企業が再び国内で物づくりをする可能性がある。それが国家戦略というものだ。

 宮脇 中国は8万5000キロの道路建設を計画している。既に8万8000キロの高速道路を持つアメリカも昨年、ブッシュ大統領が新たに、高速道路整備を含む30兆円近い公共事業計画にサインした。いずれも、道路建設は産業振興や災害対策、国防といった国益の観点を持っている。そろばんずくで道路問題を論ずるのは世界中で日本だけではないのか。

 鎌田 道路特定財源は、小泉首相の強い指示で、一般財源化を前提にこれから検討されるが、私も一般財源化には無理があると考えている。今私たちは税金を払い、一般財源として使われている。車を運転する人は、さらに税金を払って道路特定財源になっているのだが、これを一般財源化すれば税を二重に払うことになり、税の公平負担の原則から言えば通らない。環境税にという意見もある。一見、車は排ガスを出し地球温暖化に影響しているということで合理的に見えるが、一般家庭や工場なども温暖化に負荷をかけている。なぜ車の運転者だけが負担するのかということになる。

 しかし今の仕組みでいいとも思えない。そこで、環境にやさしいLRT(ライト・レール・トランシット=低床式路面電車)など、公共交通整備に財源を回してはどうか。また、国と地方の配分比率を、道路整備の遅れている地方に厚くすることも検討していいと思う。

 大石 道路特定財源の一般財源化について、政府は「納税者の理解を得て」としている。ここが大切なところで、財政がひっ迫を理由に、税の目的を勝手に変更すれば、国民のたいへんな不信を招く。

 LRTは回り回って車利用者の利益になることなので、一つの案として傾聴できる。日本の物流コストを下げるという考えも確かに重要だ。もちろん未整備地域をどうするかということを考えた上でだが、まわりまわって道路利用者に帰っていくという使い方は検討に値すると思う。

パネルディスカッション    ◇     ◇

 松本 地方でも自らの望ましい姿、地域づくりについて考えていく必要がある。この点も踏まえて、島根は何を訴えていけばいいのだろう。

 鎌田 情報があふれる東京にいると、何となく、いろいろなことが分かった気になってしまう。マスコミも同じで、地方から情報をどんどん発信してもらわないと分からない。

 地方の在り方については、やはり雇用の場、そこで生活できる場を確保するということだろう。一朝一夕ではできないが、是非この地域にある資源を活用して、雇用に結び付けるという戦略を持たなければならない。もう一つは、国交省は全国総合開発計画(全総)に代わるものとして、幹となる国の計画と、ブロックごとの広域地方計画からなる国土形成計画を準備している。島根の道路整備をこの広域地方計画の中に入れるためには、何より他の中国四県との信頼関係、連携が大切だ。

 久保田 今後の日本は「豊かな高齢社会」を目指すと考えている。そのキーワードとして、一つは余暇や観光などに時間と金を使える「ゆとりある生活」。次に医療などの心配がない「安心な暮らし」。さらにそれらを支えるためには、「しっかりした経済基盤」が必要だ。車社会の現代では、いずれも道路が重要な役割を担う。豊かな日本の実現のためには、道路が不可欠だ。

 今、2007年問題が言われているが、問題の本質は団塊の世代が大量退職することが分かっていながら、技能が伝承してこなかったことにある。目先のコスト削減のために、生産拠点を海外にシフトしたり、ベテラン技能者をリストラしたこと、若い正社員を採用しなかったことが原因だ。道路問題も採算性だけで建設の可否を決めれば、同じことが起こりうる。

 宮脇 中小企業が大企業を支えているように、地方が大都市を支えてる。例えば東京で学んでいる県出身の大学生約1万人分の仕送りだけでも、年間総額2百億円にもなる。これらの学生は卒業しても就職先がないため島根に帰れない。雇用拡大が急務だ。観光振興については、これからの観光は到着は早く、滞在は長くが主流になる。それを実現するのが道路だ。

 ここで重要なのは、単に道路を作ってくれというばかりではだめで、各自治体が県と一体になってグランドデザインを持つことだ。作った道路を活用して、ここではこういう町を作る、ここでこういう産業を興すということを、産学官が一緒になって考え、訴えていかなければならない。

 澄田 自立し活力ある島根を築くためのキーワードとして産業振興、地域振興、道路整備、人材育成の4つを考えている。島根には都会にない歴史・文化や自然景観がある。それは都会に暮らす人に癒しを提供できるものだ。少子高齢化社会を迎え、都市と地方が互いに補完しあい、いい意味で競い合う社会基盤システムを構築することが、真に豊かな日本をつくることになると考える。それを実現するのが交通ネットワーク、特に道路だ。

 久保田 人口減少社会では、行政サービスもこれまでの市町村単位から、広域行政サービスの時代になる。広域サービスを可能にするのは道路であり、道路整備は、将来を見据えた開発投資・設備投資と考えるべきだ。

 大石 まったく同感だ。道路・港湾建設、農業基盤整備など、私たちは祖先から長い時間をかけて国土に働き掛けることによって、国土から恵みを受けている。それを公共事業とひとくくりにするから、先人の努力のおかげで、いま暮らしていけているということが見えていない。諸外国は国土に働き掛け、少しでも競争条件をよくしようと頑張っている。これに対し、わが国は予算上の公共事業費の論議で終わっている。私たちは次の世代に責任を負っている。子どもたちに何を残していくのかという議論がもっと真剣になされなければならない。

 松本 最後に、今後の取り組みへの決意を知事にうかがいたい。

 澄田 地方は自立していくという気概を持たなければならない。国も一方的に自立を促すということではなく、まず地方が自立するための基礎的な条件を、国の責務として整備すべきだ。そういう意味で、高速道路整備は地方が自立へのスタートラインに立つ絶対的条件だ。高速道路は、次世代に残すべきものとして、9342キロの整備区間だけではなく、法定予定路線の早急な整備を強く主張していきたい。
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