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特別講演
 石見銀山で国土経営を考える
(財)国土技術研究センター理事長 大石久和氏

 石見銀山が世界遺産に登録されたら、国内をはじめ世界中から多くの人に来てもらい、その意義や意味を知ってもらう必要がある。そのためには環境整備が欠かせない。環境整備の方法は、商業政策、観光ルートの開発など制度面、高速道路、空港・港湾整備など装置面の2つがある。

大石久和氏  装置面は公共事業による社会資本整備だ。日本では、先人が河川改修、道路・港湾整備など国土にさまざまな働き掛けをしてきた。われわれはその恵みを受けて暮らしている。

 社会資本整備は各国、地域によって自然、地理、歴史的条件が違うため、それぞれに適した方法で進められる。例えば、日本の高速道路の橋脚は、中国に比べて頑丈な構造になっている。このため費用も工期を多くかかる。狭い国土に4つのプレートがせめぎ合い、地震が頻発する日本で、中国並みの橋脚では安全性が保てないからだ。

 また、治水でも日本には1級水系(国土保全上、国民経済上特に重要な水系で政令で指定されたもの)が百九もあるのに対し、フランスには5水系しかない。地盤も日本は川が土砂を流して作った土地で軟らかいのに対し、パリは200万年前に氷河が削り取った頑強な大地に成り立っている。このため、日本では新幹線、空港を造るにしても大変な努力が必要となる。こうした悪条件を克復する努力が国土経営であり国土管理だ。

 高速道路整備については1972年に料金プール性を導入した。全国の高速道路を一つの道路としてネットワークを完成させ、ユニバーサルサービスとして国民が基本的権利として等しく恩恵を受けられるよう整備していくことが必要−という考えからだ。

 高速道路建設に反対している人は「東名の利益で、交通量からみて必要と思えない山陰や北海道の道を造っている」と言う。オピニオンリーダーといわれる人はほとんどが東京に住んでいて、地方の実態を知らないのに「日本の道路整備は津々浦々まで終わっている」などと発言している。

 しかし、島根の場合、東西を結ぶ高速道路が開通していない。国道9号で事故があると、東西の交通がたちまちマヒしてしまう。また、海上輸送の主力の大型コンテナを積んだトラックやトレーラーが通れる道があるのか。

◆環状道路の意味
 〜A地点からB地点への行き方は何通り?〜

併用図
 この図(併用図参照)は道路のネットワークをイメージしたものだ。環状道路がなければ[図1]AとBを結ぶルートは1本しかないが、これに環状道路を作れば[図2]17通りものルートができる。事故などで不通個所が発生しても、う回して何とか目的地にたどりつくことができる。ところが環状道路の1カ所が欠けた[図3]だけで、ルートは6通りと、約3分の1に減ってしまう。この欠けた部分が山陰道ということも言える。欠けた部分の交通量が少ないから、工事費がかかるから、という理由で建設するしないを判断していいのだろうか。

 アメリカは今年(2005年)8月、国家的に重要な高速道路のインターステートハイウェーの新たな整備計画を決めた。この高速道路は当初、州政府が設計、建設していた。しかし国家防衛上重要だという視点で連邦政府が計画を作るようになり、別名「ナショナルディフェンスハイウェー」といわれる。今の日本の道路建設論争は、国土全体をうまく使い、弱い地域を作らないといった理念も、セキュリティーへの配慮もなく、交通量だけで判断しようとしていて、このことに大きな危惧(きぐ)を感じている。

 観光については、訪れた先の歴史やそこの人の価値観を学び、自分の住むところとの違いを検証することが目的の一つだということに留意していただきたい。世界遺産に登録された石見銀山の歴史・自然を地元の人が大切にし、誇りにしながら暮らしている姿を見てもらい、訪れる人たちに価値観の違いを実感してもらえるようにすることが何よりも大切だ。

 また、観光のスタイルは、欧米が滞在型なのに対し、日本は四国33ヶ所巡り、お伊勢参りなどが示すように伝統的に周遊型だ。石見銀山もここだけでなく何かとセットにして見てもらうことが必要だ。地元の努力で多くの人に親しまれる素晴らしい世界遺産になるよう期待している。

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