基調講演 開催趣旨 | パネルディスカッション

「宍道湖・中海圏域の将来」
   〜日本海新時代と新たな国土計画〜

 大石 久和氏
 東京大学大学院情報学環特任教授  

 本日伝えたいテーマは3つ。広い地図で我々のエリアを見ようということ、そして東西を高速道路で結ぼうということ、もう一つは多くの方々が社会を支える側に参画してもらうための環境づくりのために、制度設計とインフラ装置づくりを一緒にやっていこうということ。さらに、道路財源についても最後にお話しさせていただきたい。

 最初に、山陰地方の位置づけ・役割について。昨今の東アジアの状況や経済の24時間化、経済のグローバル化などを考えると、少なくとも東アジアくらいの地図を使って考えないと、中海、松江、島根、鳥取の議論はできない。

 1980年ごろまでは、わが国は東アジアの中で卓越的な国だった。港湾で見ると、このころ東京湾港(横浜、川崎、東京港)の外貿コンテナ貨物取扱量は、約160万TEU(20フィートコンテナに換算した数字)だった。その時に、中国・上海港のコンテナ取扱量は8万3000TEU。2005年には、東京湾港は580万TEUに伸びているが、上海は1000万TEUもの取扱量を持つ物流拠点になっている。韓国の釜山も上海と同程度の取扱量になっていて、第二釜山港というものが準備されている。この釜山をどう使いこなすのかが、これから日本海側の各港の戦略になっていくのではないか。

 日本地図を180度ひっくり返すと宍道湖、中海圏域がいかに中国や朝鮮半島に突き出たエリアかが分かる。釜山などとの関係を考えるとかなり有利な位置にあり、この位置的優位性をどのように生かしていくかが課題だ。
 日本の国内のことなら東京が入っている地図が必要。国内の農産・水産品をみると、距離的には山陰地方とあまり変わらない愛媛県のマダイが東京中央卸市場に入っている。高松自動車道が供用開始し、瀬戸大橋、明石海峡を通り高松自動車道が全線開通すると一気に東京が近くなり、愛媛県は東京という市場を手に入れた。野菜でも、熊本や鹿児島のキャベツも東京に入っているのに、島根は番外。他県よりも多く作っているものでも東京に入っていない。



 そこで2番目に、この地域の最大のインフラ戦略は、高速道路を早く造って、大阪や東京と、この地域を結ばなければならないということだ。

 アメリカやEUは今も高速道路を造り続けている。中国もそうだ。それは、強い国家をつくる、弱い地域を応援する、あるいは土地を有効活用するといった明確な国家戦略に基づいている。

 高速道路は是か非かという議論が起こっている。採算性が悪いとかいうレベルで議論されているが、国土の有効利用とか、国家が持っている経済ポテンシャルという視点でみて、日本海側にすべて高速道路を通そうというのは贅沢すぎる計画であるはずがない。強い日本を作っていくための国家戦略として、高速道路は不可欠なのだから、この地域の人たちが、国の財政再建のために高速道路を造ってくれと大きな声で言えない、などと遠慮する必要はない。

 大変な問題のひとつとして、島根では救急医療がある。事故などで出血多量という状態になった場合、だいたい1時間超過すると死亡率は100%になる。心臓だと5分止まるだけで非常に危険だ。ところが県内の3次医療機関は1カ所しかなく、県西部では浜田道を通じて広島に運ぶことになる。そういう意味でも、この地域に集中して高速道路を整備すべきだ。

 さらに、国土形成計画を作っていく最初の年を迎えている。

 中海・宍道湖エリアを考えると、広島、岡山との結びつきをコアエリアとして、鳥取も吸引できるポテンシャルを持ちたい。そしてこのエリアからも徳島や、その他の地域と結びついていくような都市圏のつながりが考えられるのではないだろうか。

 高速道路を造ることは、日本としてはもう一度競争力のある国に変わっていくため、この地域としては、持っているポテンシャルや優位性を使って強い日本をつくるために貢献できるようにすること。そして、次の世代が他国と肩を並べて競争していけるようにするための、私たちの世代の責任でもある。



 3点目は、参加型社会をつくろうということ。これからは地域間が競争しながら連携していくという構造になる。島根は今、石見銀山遺跡の世界遺産登録を目指した運動をしている。重要なのは、世界遺産ということであれば、世界に卓越したものを持つということ。日本中あるいは世界中から来る目の肥えた人たちが見て、耐えられるだけのものを持たなければならない。

 そのためには、わが町主義、わが県主義ではどうにもならない。地域間の壁、県境の壁といったものは、もう取り払っていかなければならない。そして、その地域の人たちが、他の地域の活動にも参加できるような社会にしていくことが必要だ。

 同時に、制度や装置を整備することで、他国に比べて社会参加が進んでいない子育て世代の女性とか、障害者についても、社会を支える側にまわってもらえば少子高齢化時代は乗り切れる。



 最後に道路特定財源について、皆さんに伝わっていない部分について少しお話ししたい。

 道路特定財源を一般財源化したイギリスでは、この25年ほどの間に、ガソリンにかかる税は5倍になった。一般財源化するということは、道路整備に使途が限定されないわけで、財政が苦しいときにガソリンに担税力があると思えば増税するという制度に道が開かれる。フランスやドイツも同様だ。日本はこの間、ほとんど増やしていないが、同様にならないという保証はない。

 日本のガソリン価格を120円とすると、その中の税額は60円。各国と比べると低い方から6番目。この資料が一般財源化したいという人の目に触れると、日本国民は、他国に比べて税負担が少ないという資料になる。そして、ガソリンの担税料があるのだから増税できるはずだ、という議論になる、さらに道路整備に使われないのであれば、財政再建のために増税してもいいという議論にすり替わるための材料になっている。

 また、公共交通機関が整備された東京では、例えば中野区に住む人が年間に支払うガソリン税は、年間1万2000円。これに対して、車に頼らざるを得ない島根の人は8万4000円も負担している。国の財政再建を意図した道路特定財源の一般財源化の議論を当てはめると、島根の人は、中野区の人よりも7倍も財政再建に責任を負えということになる。

 こうしたことが国民に知らされないままに、一般財源化の議論がされているというのは問題で、すべての資料を添えて国民に知らせるのはメディアの責任でもある。

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