パネルディスカッション 開催趣旨 | 基調講演
大石久和氏 大石 久和氏(おおいし ひさかず)
東京大学大学院情報学環特任教授
1945年生まれ、兵庫県出身。70年3月、京都大学大学院工学研究科修士課程修了。同年4月、建設省(現・国土交通省)入省。93年4月、国土庁(現・国土交通省)計画・調整局総合交通課長、95年6月、建設省道路局道路環境課長、96年7月、大臣官房技術審議官、99年7月、道路局長、02年7月、国土交通省技監。04年7月に(財)国土技術研究センター理事長に就任。04年10月、早稲田大学大学院公共経営研究科客員教授(兼務)、05年2月、東京大学大学院情報学環特任教授(兼務)。
  濱田美絵氏 濱田 美絵氏(はまだ みえ)
地域づくり団体トトリネット事務局長
1964年生まれ、鳥取県出身。鳥取県立米子東高等学校専攻科、明治大学短期大学経済科卒業。関東でイベントコーディネーターとして活躍。その後、旧淀江町(現米子市淀江町)にある「白鳳の里」の運営会社・株式会社白鳳の統括マネージャーに就任。04年同社を退社、05年12月合同会社めぐみ代表に就任。鳥取県農業会議経営構造対策推進アドバイザー、鳥取県環境審議会委員、鳥取県河川委員会委員、鳥取県文化財保護審議会委員、安来市政策アドバイザーなどを務める。米子市在住。
松浦正敬氏 松浦 正敬氏(まつうら まさたか)
松江市長
1948年生まれ、松江市出身。71年東京大学法学部卒業。同年自治省(現総務省)に入省し、福岡県人事課長、宮崎市助役、京都府総務部長、自治省行政課長、同審議官などを経て、2000年6月に松江市長に就任。「定住対策」「観光の振興」「リサイクル都市日本一」「市民参加のまちづくり」を主要施策に掲げ、国際文化観光都市「松江」のまちづくりに日々精力的に取り組んでいる。
  飯塚大幸氏 飯塚 大幸氏(いいづか だいこう)
出雲の国社寺縁座の会事務局長
1960年生まれ、出雲市(旧平田市)出身。73年京都・大珠院へ弟子入り、駒澤大学仏教学部卒。83年埼玉・平林寺専門道場へ入門、90年ロンドン仏教協会へ1年間留学。93年一畑寺住職に就任。02年一畑薬師教団管長に就任、現在に至る。社会福祉法人真心会理事長やボランティア活動「平田掃除に学ぶ会」の代表世話人を務める。趣味は自然散策 。
宮脇和秀氏 宮脇 和秀氏(みやわき かずひで)
島根経済同友会代表幹事
1949年生まれ、大田市出身。島根県立松江南高校、慶応義塾大学卒業後、富士ゼロックス(株)に入社。海外事業部、中央営業事業部で米国大使館国防総省担当や神戸支店長などを勤務後、85年同社を退社し、(株)ミック設立と共に代表取締役専務に就任。97年より同社代表取締役。現在、島根経済同友会代表幹事、島根県情報産業協会理事、島根県経営者協会常任理事など要職を務める 。
  松本英史氏 コーディネーター
松本 英史氏

 (まつもと ひでし)
山陰中央新報社論説委員長
※略歴はシンポジウム開催(平成19年2月28日)時のものです。

 【圏域の現状】
 松本 まず、地域の現状や取り組みについてお伺いしたい。
 松浦 圏域人口は約66万人で、日本海側では新潟や金沢に次ぐ。インフラも出雲、米子両空港と境港、高速道路も山陰道や尾道松江線が懸案を抱えながらも整備が進んでいる。
 現在、中海周辺4市の連絡協議会を置いている。江島大橋の開通とラムサール条約登録で弾みがつき一斉清掃や産業技術展の開催なども実現した。
 宮脇 この圏域は日本海側の集積地では、歴史や文化、自然、景観に最も恵まれている。これをうまく活用しようと昨年、両県5市長と両県知事に話し合ってもらい、観光マップなどを作った。今年は両県の経済同友会で観光の産業化について具体的な活動を始める。
 飯塚 宍道湖、中海周辺の20社寺で1つの巡礼ルート「出雲国神仏霊場」を立ち上げた。神仏混合で行うのは日本でも前例がない。今の病んだ世相の中で同じ宗教者として人々の幸せのため、また地域振興のために何か寄与できないかという思いで神仏の“違い”を乗り越えた。連携することで、点だった寺社が線や面になり、地域全体の魅力が浮かび上がってきた。
 濱田 大山山ろく周辺を中心に、主に環境保全と地域づくりの融合を目指す活動をしている。多くの団体が観光や歴史、福祉、文化など各分野で活動しているが、各団体の資金力やマンパワーはネットワーキングできるほどではない。特に森林関係の情報は、島根県の情報が入らない。
 大石 皆さんの発言は「違いがあることを認める」ということかと思う。それは勇気の要ることだが、そこから始めないと連携にはならない。連携論というのは、すなわち補完論。違いを認識し、それを主張しながら、足らないところを補い合うという関係をつくるべきだ。

パネルディスカッション


 【圏域の特性と発展の方向性】
 松本 圏域の特性や特長、活用できる素材は何か。
 飯塚 「出雲国『社寺縁座の会』の発足は広域的な出雲の地域性に目を向けた結果でもある。わたしたちは斐伊川水系や大山を含めた地域を自然にも歴史という観点からも一帯として考えた。出雲神話の舞台そのもので、日本人の心の古里と言っても過言ではない、素晴らしい地域だ。
 宮脇 21世紀は小さな地域内での歴史や文化、特にコミュニケーション能力などの「ソフトパワー」が必要だ。特に、元気がいい、環境を大切にする、先端技術を持っているといった「マンパワー」が最も重要だ。この圏域はそうしたパワーを持つ地域になりうる。
 濱田 意識しないものの中にも資源がある。例えば観光一つとってもたくさんの切り口がある。人の集積とともに、人の近さ、親しさがある。山、海、川、湖の多様な自然が至近距離に詰まっているのはこの圏域の大きな特長だ。
 松本 観光というのは取り組みやすく、既に多くの取り組みがされている。圏域がまとまる一つの方向になりうる。
 松浦 松江開府400年祭を今年から5年間行う。祭りの一つの方向性として、圏域全体を取り込んだ取り組みをという要望がある。安来の島田二郎市長からも、堀尾吉晴は、もともと広瀬城から松江に入府したのだから、と参加の意向があった。大事な視点だと思う。
 宮脇 観光産業には、食も宿も全部絡み、インフラの道路も、住民のもてなしの心も必要だ。それらがそろい、皆さんの評価を得てこそ「オンリーワン」と言える。以前言われた「もう一度行ってみたい町」ではなく「住んでみたい町」でなくてはならない。
 濱田 観光の一つとして食を生かせないだろうか。中山間地の多い当圏域で地域の特色が出せると考えている。第1次産業は中山間地の基幹産業として支援すべきだ。さらに食の生産・加工・販売が一貫して域内でできれば産業振興にもつながる。さらに温泉や景勝地があり、大山などでは森林浴もできるので福祉的、予防医学的な面からも生かせる。米子市は健康保養都市を目指しており、鳥取大学医学部もある。
 松本 観光については、これまで多くの取り組みがされてきた。要はどう推進していくのか。官民の連携も必要だ。
 松浦 確かに、観光は圏域の共通課題として取り組みやすい。主役になるのは民間で、官民の連携が難しいのも事実だ。官の中でも市町村はまとまりにくく、県のリードが必要だ。行政と民間が情報交換し一つの方向で動いていかないといけない。
 中海4市の連絡協議会で民間と連携しているが、事務局が持ち回りで成果が現れにくい。そこで「中海市長会」の発足を提案した。常設の事務局をつくり既設の協議会などと連携を強めたい。民間の事務局長にすれば民間内の連携もうまくいく。
 宮脇 官民の連携のためには、まず何をやるかというビジョン、強力なリーダーシップ、今まで自分がいたところの既得権を主張しないというルールづくりの3つが必要だ。官民はもともと異質なもので、一緒にやるのにはエネルギーがいる。しかし、現在圏域内にたくさんある組織を一緒にして取り組む時期を迎えているのは確かだ。
 大石 観光の問題は抽象論で議論しても成果が上がりにくい。「観光は官か民か」という話になったときは、まずこの圏域の何を、誰に見せるのかということがあった上で観光の議論をしなければならない。そうすれば官民の役割分担がおのずと見えてくる。一行政でやるのか、行政の連携が必要かも同様だ。最初に行政の役割が何かという問題の立て方をしても難しい。
 松本 ほかに、地域づくりに必要な要素は何か。
 宮脇 地域で必要なイノベーションは、初対面の人や違う分野の人との希薄な関係から濃密な関係に移る時に生まれる。メンタリティの部分での努力が必要だ。また人口減少が続く中で、職がないために若者がいなくなるのは大きな問題。単に工場を誘致すれば地域が発展するということはもはやない。問題は何を呼ぶのか。まず地域のグランドデザインを描くべきだ。
 飯塚 環境と福祉は時代の潮流であり、逆らえない。これに配慮しないものは淘汰される。さらに、地域には地域のカラーがあり、この圏域はやはり「自然に恵まれた」という冠が付く。それを生かしてヨーロッパの美しい地方都市のように、50年、100年の長いスパンで計画を立てるべきだ。
 大石 短期間でみるべきではないというのは、おっしゃる通りだ。一番長期的に見なくてはならないのは行政だ。そこは行政が責任を持ち、長い期間で考えるところ、数年単位で見るところがあって、それは行政が担うのか、民間なのか、NPOなのかという整理の仕方をすべきだ。
 また、1人当たりの土地資産がこれだけ大きい地域はほかにない。住宅ローンの金利を、広い家を建てる場合に低くするなどして、100坪以上の家に住めるということになれば、この地域に行こうという人も増えるかもしれない。
 松本 地域の特性として北東アジアとの関係も重要ではないか。
 宮脇 新潟には町中にロシア語の看板がたくさんある。国際文化観光都市の松江市は、まず中国語と英語の看板やパンフが必要ではないか。また、知的労働者も含めて海外の労働力をどんどん入れるべきだ。
 飯塚 縁座の会のパンフも将来は英語、中国語、韓国語でも作りたい。また、圏域全体で共通のイメージを持った、共通の標識や看板を作っていく必要もあると思う。
 松浦 日本人の国内旅行は20年以上ほぼ横ばいだ。これを増やすにはリピーターと宿泊客を増やす必要があり、外国からの客も増やしたい。

 【提 言】
 松本 最後に、圏域の将来の発展に向けた具体的な提言をお願いしたい。
 松浦 日本全体を見た場合、均衡ある発展はもう難しい。道州制になれば、各ブロックで中核都市とサブ的な都市を形成していく時代になる。それに備え、日本海側でも有数のまとまりを最大限に生かしたい。できることから始めて実績をつくっていくことが必要。そのためにも、きちんとした組織を作りたい。
 宮脇 田舎の職場は、都会より給料は多少低くてもやりがいのある仕事がある、という金ではなく生きがいを与える職場環境をつくり、若年層の定住化を進める義務が地域にある。雇用創出のための産業振興は不可欠で、経済を核に考えるべき。
 700万人の団塊世代が退職する2007年問題より、1999−2000年に景気対策で発行した国債約70兆円の償還が始まる2010年問題が重要だ。2010年の自立を目指して取り組まなければならない。また自分たちのためだけでなく、子孫のためにも高速道路は絶対必要だ。
 濱田 中海・宍道湖・大山圏域の将来を考えると結局、マンパワーしかない。それを生かす前提として、行政や経済界で圏域のシンボリックなネーミングを考えるなど、住民がこの圏域を考えやすいように工夫することも必要だ。
 飯塚 センスがいいことは非常に重要だ。都会の人や外国人が見ても「センスが良い」「行ってみたい」と思う地域をつくるだけでもずいぶん変わると思う。松江も日本一の城下町を目指すのであれば、城下町らしい建て物を増やすべきだ。
 大石 わが国に一番欠けているのは「わが国は頑張ればもっと良くなる」というメッセージが多くの人に伝わっていないことだ。「財政再建のためにはあれはしてはいけない、これもだめ」などと、人々の気持ちを委縮させるメッセージしか出ていない。特にこの地域はインフラ整備面で非常に厳しい。ぜひ主張してほしい。「これを言ったら地域のエゴといわれないか」などと遠慮させていることが非常に大きな問題だ。この圏域にはわが国のルーツにつながるような深い歴史や自然など豊かな財産がある。それを生かすためには、支えるインフラが必要。
 今年は国が「国民に真に必要な道路」を見極める大切な年だ。地域の発展を支える道づくりに、必要なものを積み上げる努力をお願いしたい。

 松本 中海・宍道湖・大山圏域の発展のため、今日のシンポジウムが生かされることを念願している。ありがとうございました。

中海・宍道湖・大山圏域シンポジウム「未来への指針」 戻る