(1)仙の山

岩盤えぐる欲望の痕跡

石見銀山遺跡で最大級の露頭掘り跡。鉱脈に沿って掘り進んだ跡が3本も集中し、大量の銀が採れた往時をほうふつとさせる=大田市大森町
 07年夏の世界遺産登録が予定される石見銀山遺跡。約500年に及ぶ歴史の重なりやロマン、人々の営みを追う。

 思わず息をのむ。気おされ、すぐには近寄り難かった。

 石見銀山遺跡の中枢は仙の山(標高537メートル、大田市大森町)。すべてはここから始まった。山頂付近から道を探して1時間。東側の中腹に銀山最大級の露頭掘り跡があった。

 銀鉱脈に沿って、えぐるように掘り込んだ跡が1本、2本、3本。高さ10メートルにわたって岩盤を断ち、割る。暗闇の底から吹き出す冷風が、霊気を帯びているようだ。

 辺りには約450年前の戦国時代後期、銀にかけた人々のすさまじい欲望が漂う。

 「本当に銀山は、何が出てくるか分からない」。初めて足を運んだという大田市石見銀山課の中田健一さん(39)が「怖い」とつぶやいた。

 目を凝らすと、左側の掘り跡の中に「四角い間歩」(まぶ=坑道)があった。江戸期に再開発された証し。銀の品位が高かったことを物語る。


 周囲を探ると、岩盤の上と北側にも露頭掘り跡が集中。ただ単に掘りまくったのではなく、当時の山師が冷静に、銀鉱脈の位置を見極める「科学の目」を備えていた事実を伝える。

 仙の山の山中は危険な立て坑が多く、一般人や観光客は、立ち入ることができない。

 これらの採掘跡は、石見銀山の歴史と世界遺産にふさわしい価値を、無言でひっそりと証言しているかのようだ。

2004年6月29日 無断転載禁止