(5)清水寺の格天井

清水寺の格天井 銀増産もたらした長安

清水寺本堂の格天井。下から2段目中央の下がり藤が、初代石見銀山奉行・大久保長安の家紋。江戸幕府の礎を築いた功績をしのばせる=大田市大森町
 「江戸のスーパーヒーロー」。作家の荒俣宏さんが、こうたたえるのは、江戸幕府の初代石見銀山奉行・大久保長安。大田市大森町銀山地区の谷あいに建つ清水寺(せいすいじ)本堂の天井に、長安の家紋が描かれていることを知る人は少ない。

 丸に桐(きり)、鷹(たか)の羽紋などとともに描かれたブルーの下がり藤、中央に「大」をあしらったデザインだ。天井を格子状に仕切った格天井(ごうてんじょう)は、格式を尊ぶ空間の証し。銀山百カ寺とたたえられた石見銀山でも長安の家紋をとどめた格天井は清水寺のみに伝わる。

 「徳川家康が全国政権を樹立しようとした際、最初に掌握した拠点が石見銀山。欲しくてたまらなかったから、最も信頼する人物を差し向けた」

 法政大学の村上直名誉教授(日本近世史)が指摘する。

 長安は猿楽師の家に生まれながらも、武田氏の家臣となり金山を担当。甲州流の治水や鉱山技術を磨き、家康最大の政策ブレーンに昇進。東海道五十三次の宿駅制など斬新な新政策を次々と断行し、領国は駿河や信濃など10カ国に及んだ。

 が、死後、横領疑惑が浮上。幕府命で財産が没収され、葬儀は中止。遺子は処刑された。長安の強大な権力を幕府が危険視したためだ。

 清水寺の熊谷弘孝住職の妻百合子さんは、格天井に「私の実家の家紋もあります」と教えてくれた。百合子さんは、江戸初期、優れた鉱山師として活躍した吉岡隼人(はやと)を祖とする吉岡家から嫁いだ。家紋は梅。格天井は、ともに銀山開発に打ち込んだ長安と地役人の吉岡らが奉納したとみられる。

 往時、長安は石見、佐渡、伊豆の金銀山奉行も兼務。長安に従い吉岡も各地に赴き、行き詰まっていた経営を打開、飛躍的な増産をもたらした。

 自らの才覚でのし上がり、激動の戦国の世を駆け抜けた大久保石見守長安。清水寺の格天井は、石見銀山で培われた技術が、日本を世界有数の銀産国に押し上げた史実をひっそりと伝える。

2004年9月28日 無断転載禁止