新聞社研修を振り返って/大田市立第一中学校、山尾一郎教諭

 身近な新聞は児童、生徒の思考力を高める絶好の教材-島根県大東町立海潮中で5年間NIE実践を続け、地元紙の山陰中央新報社で1年間長期研修し、新聞を制作する側の視点も学んだ大田市立第一中学校の山尾一郎教諭(45)。その体験記と今後のNIE活動についての提案を紹介する。

 新聞を生涯学習の友に

 日本でNIE活動が始まって15年。島根県でも新聞を活用する実践校が指定されるようになって10年がたつ。大東町立海潮中で5年間NIE実践にかかわり、さらに昨年度山陰中央新報社で1年間研修し、新聞を制作する側の視点も垣間見ることができた。その経験をふまえて今後の活動について提案したい。

 販売局では「若い人が新聞を読まなくなって困っている」という嘆きをよく耳にした。これは学校での「読書離れ」と共通している課題だ。活字文化の危機も叫ばれる中、学校も真剣に取り組まなければならない。

 映像情報はもちろん重要だが、文字情報をじっくり考えながら読み解くことは、思考力を高めるためにも必要だと思う。

 新聞は総合情報メディアとして内容が豊富で、どこでも興味ある紙面から読み始めることができる。本を読むことは大切だが、急には難しい。毎日の習慣として紙面を開けるようになれば抵抗感がなくなり、読む楽しさも分かってくる。

 そのためには新聞を丸ごと使い、テレビ欄でもスポーツ欄でも好きなところから読み始めることが大事だ。そして事件や話題を掲載する社会面に興味を持てれば第2段階、政治、経済、国際面まで関心を高めることができれば第3段階とステップアップしたい。

 発達段階に応じて新聞とのかかわり方は変わってくるが、無理に押しつけることは禁物。幼児期から新聞を玄関先に取りに行ったり、新聞でかぶとを作って遊んだりする助走期も必要だ。

 新聞社は中学2年生の国語力を持って、おおむね理解できることを前提に制作している。小学生でかなり読むことができれば大いにほめてやればいい。

 新聞を通して子どもの社会的関心、知的好奇心の高さなどを家庭でも把握できるチャンスになる。もちろん記事を通して家族が意見を言い合えば、ファミリーフォーカスにつながり、親子のコミュニケーションを深めることができる。

 新聞をあまり読まない中学生に理由を聞くと「忙しいから」という返答が圧倒的に多い。中学生は新聞を嫌いだから読まないのではなく、部活動や宿題などやらなければならないことが多いことも一因だと感じている。

 授業の中で新聞を「課題探し」に使うと、生徒は生き生きと紙面をめくる。学校にゆとりがなくなってきていることが、生徒の新聞閲読時間の短縮につながっているとすれば問題だ。

 学校で生徒が休み時間にでも、新聞をめくることができる環境は必要。NIE実践校には計画的に無償で新聞が届けられ、他の学校でも近年、割引制度で安く手に入れることができるようになった。そこで一歩進めて、新聞を教材に必要な学校へ無償配布はできないだろうか。

 販売職場で体験したことだが、一部全国紙では新聞勧誘のため景品を用意している。その経費を将来の読者を育成する事業費として回すことは難しいだろうか。

 新聞業界も読者獲得のためにしのぎを削ることよりもむしろ、多メディアの時代には新聞の価値をPRしたり、読者の声を反映した新聞作りにエネルギーを使う時期だと思う。

 実際に取材をし記事を書いたが、限られたスペースの中で情報を正確に伝えることは難しい、と痛感した。事件、事故の取材なら5W1Hの基本はどこの新聞でも押さえるだろうが、その背景にどう迫るかは記者の感性や力量で変わってくる。

 NIE実践の一つである各紙の読み比べは、メディアリテラシー(情報を適切に読み取る力)を育てるためにも有効な手段だ。例えば、「イラクに自衛隊派遣」の記事も各紙で論調が違っていた。一つの事象を多面的、多角的にとらえることの大切さを学ぶチャンスでもあろう。

 読み比べができる生徒は、新聞のおもしろさを楽しむことができる。家庭で複数紙とることは難しいので、学校で公立図書館のようにいろいろな新聞を読めるようになることが理想だ。

 整理部では、記者が書いた記事に見出しを付け紙面をレイアウトする仕事を体験した。印刷開始時刻が決まっているので、深夜の締め切り時間を守るため必死に作業が行われ緊迫感があった。

 学校では中学生から、何行も飛んでしまうと「次はどこを読むの」と素朴な質問も受けていた。切り抜きをするときも同じ記事が別れてしまうのでスクラップしにくい。

 近年ブロック型で切り抜きやすく編集される紙面も増えたが、できるだけ段を下りるときに大きく飛ばさないで読みやすい紙面を作ってもらいたい。

 学校側は見出しを活用するとおもしろい。見出しを伏せて記事だけ読んで、8~10字で見出しを考える学習は、文章のポイントを的確に読み取る力を育て表現力を高めると思う。生徒は苦労するが、感性を磨く学習にもなるだろう。

 地元新聞社は「地域との共動」をスローガンに掲げている。学校も家庭、地域との連携が叫ばれている。

 NIEの広がりとともに読者の投稿欄に、小・中・高生の意見が多く載るようになった。その声によって、実際に地域の環境改善を行う動きも起こっている。

 若者の行動を不安視する大人からは、「投稿を読み安心した」と励ましの声も届いている。新聞を媒介にして、学校、家庭、地域の思いをキャッチボールできるようになれば最高である。

 新聞は今後、生涯学習社会の身近な教材として大きな役割を果たしていく可能性がある。そのためにも新聞界はよりよい新聞を作るために読者の声をもっと取り入れ、学校も気軽に教材として活用していくことが望まれるのではないのか。
(2004年4月30日掲載)
新聞社研修で組み版端末を使って、新聞紙面を作り上げる山尾一郎先生
海潮中の公開授業では、親子で社会を学ぶユニークな取り組みも紹介
新聞切り抜きを示しながら、生徒に「自分探しの旅」のヒントを披露

2004年4月30日 無断転載禁止

こども新聞