島根県NIE学習会から 出雲市立浜山中学校・多久和祥司教諭

「生きた実践報告をもとに質を高めよう」と開かれたNIE県学習会で助言する有馬毅一郎県NIE推進協会長
 楽しくNIEに取り組もう-新聞の教材活用を考える本年度の島根県NIE学習会が6月12日、松江市内で開かれた。今年秋から新規実践校として新聞を活用する取り組みを計画している4小・中学校の先生に具体的な授業の進め方、考え方など先輩スタッフが貴重な体験談を基に助言した。学習会の基調実践報告など紹介する。

 イラク人質報道を考える

 今年4月、社会科の学習で、時の話題、イラク人質事件の「自己責任論」を取り上げた。3年生に、「今生きている社会の問題に興味・関心を持つように促したい」という思いと、自分の意見を「書く」という表現方法を取ることで、時間をかけて問題を整理し、理性的な思考を育てることを狙った。

 授業には新聞記事やメディアのさまざまな意見を整理したプリントを用意した。現代社会の問題には、その見方・解決方法をめぐって異なった意見があることを知り、双方の意見対立や矛盾に気付いてもらうよう学習を進めた。

 生徒は「まずは無事でよかった…」「肝心なのは自己責任の原則」「自国民の人質救出は政府の義務責任」など新聞の多様な論調に驚いていた。指導する側として、憲法学習・人権の土俵で思考を深めるよう努めた。表現(報道)の自由と国民の知る権利や居住移転の自由など、憲法の視点から「自己責任論」を考えさせることを意図した。

 この学習を「社会科通信」として新聞調に編集し、生徒の意見を「異なる意見が出会う広場」として九号にわたりプリントで紹介した。「教師の願い」や感想コメントも付けた。さらに新聞の投書欄にも応募し、数人の意見が掲載された。

 「危険地域に行く覚悟が必要」「もし日本がイラクの立場にあったら-病死と戦死は同じなのか」「視点の違いを考えて解決策を」など、対立する意見の間で揺れる生徒の姿が浮かび上がってきた。

 生徒にとってはこの通信を仲立ちに、仲間の考えを知ることができ、お互いに出会い直すきっかけになったのではと感じている。「あの人が、こう考えていたのか」という相手を思いやる心を大切にしていきたい。現代社会の問題を解決するためには、対立する立場にある人々の気持ちや意見に寄せる想像力が大事だと考えている。

 さらに保護者にとっては気になる授業にもなりかねないが、この通信を通じて「どちらの意見にも優しい心を持つ子どもの姿を知ることができ、感動した」など、子を見つめ直す返信が届いた。

 中には「文章にすることで、考えが整理され、新しい発見があったりするように感じた。これからも新聞の社会面、政治面を読むきっかけにしてほしい」と励ましの声も寄せられ、生徒にも保護者の声を通信で紹介。「なぜ?」を問いかける子どもと、同じ時代を生きる保護者が一緒に考える”意見交流の場”になった。

 生徒にとっては、対立する意見や矛盾を抱え込みながらの苦しい思考となったが「子どもたちと今を生きたい」という保護者との問題意識の共有と支援が、こうした学習活動を継続させる力になると感じている。

 社会問題を考える授業では「本質をどうつかむか」「どういう視点でとらえるのか」が大切。そのための多様な意見、論点を資料として準備する工夫も必要だ。

 あまり発言しない生徒が、書くことで意見発信する意味を知った。社会に目を向けて生き、自分なりの理屈をつくっていけるよう生徒には望んでいる。子どもたちが抱える問題は重たい、と感じている。重い課題を解決するためには、子どもたちが直面している困難や社会問題を意味づけて考える思考、つまり哲学が必要ではないか、と考えている。

 新聞を教材にした授業は、社会問題を自分自身の問題として考える思考が育つ、と感じている。生徒の姿を見ると、社会事象に対しての関心が高まり「面白いな」と感じているようだ。「意見を持つ楽しさ」を生徒が言葉にする。とくに反論、異論を子ども自身が対置して考え始めた。他校でも社説のキーワードの読み比べや気になる言葉の調べ学習など社会事象を知る効果的な新聞の活用を勧めたい。

 今起きている社会問題を考えさせることも学校教育の責任の一つではないか。世界の出来事を人ごとで終わってしまうのでなく、そこに人が苦しみ、悲しむ問題があれば、自分とどう関係するのか、解決する方法を見つけ出すためにどんな視点から考えたらいいのか。同時代を生きる教師として、解決への手だてをともに考え、深める授業をさらに工夫したい。

 実践への助言
 教師も児童の視点で楽しむ
  平田市立桧山小学校・松浦和之教諭

 小学校のNIEで大切にしたいことは、子どもの思いを中心に考え、子どもの視線で、先生も楽しむこと。▽新聞を切り抜いたり利用すると楽しく学習できる▽新聞を仲立ちに、友達や大人の人と楽しくコミュニケーションができる-などの利点がNIEにある。

 日常的に新聞と触れる機会を多くし、継続して取り組むことも重要。授業以外で新聞に親しむ工夫として、低学年も参加できるクイズなどのNIEコーナーを設けるのを勧めたい。長期にわたりスクラップ活動を積み重ねることで、人質事件、年金、少子化など社会問題に児童の関心が広がってきた。

 先生自身もファイル化して記事を分類する準備が必要。学習資料を整えれば、周りの同僚が共通で利用できる教材として興味を持つこともできる。学校で広がりを図る知恵も大切だ。

 討論のできる生徒育てよう
  大田市立第一中学校・山尾一郎教諭

 私の一番の願いは「I think~」で語れる中学生。世界の若者と話せる、最終的には討論できる中学生を育てたい。

 生徒が自分で課題を見つけたり、解決するための情報収集をするのに「総合情報紙」の新聞は活用でき、応用範囲が広く有効な手段だと思う。

 自分の思いを伝える力をどう育てていくのか、を考えて指導してきた。新聞の社説は中学3年生にとっても理解が難しいが、継続して社説から学ぶことで自分の意見が言える生徒が出てくる。

 総合的な学習の時間に「課題探し」として、興味・関心の高い記事を100枚スクラップし、自分のテーマを決める取り組みをしてきた。課題追究、調査活動の一つとして新聞を活用できるだけに、この実践を奨励したい。

 前任の海潮中学校では、生徒の新聞を読む時間が長くなり、記事を話題にしての仲間同士、親子間の会話も増え、生徒の社会への関心は高まった、と実感している。
(2004年7月1日掲載)

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