メディアリテラシー討議 中国地区フォーラム

 メディアリテラシーを中心テーマに、広島市で「第1回中国地区NIEフォーラム」が8月開かれた。県域の枠を超えたNIE実践と研究の場にと、島根、鳥取、岡山、広島、山口の中国5県の推進協が初めて共催した。児童・生徒が情報を読み解き、生きる力にどうつなげていくのか、真剣な実践討議が行われた。これまで紹介してきた山陰を除く岡山、山口両県の教室での実践報告と、同フォーラムコーディネーターの小原友行・広島大大学院教授(広島県NIE推進協議会会長)のアドバイスを紹介する。

 新聞1面写真の比較
 多面的に情報見抜く 高橋典久・岡山県津山市林田小学校教諭の報告
 テレビや新聞ばかりでなく、現代は、インターネットでもおびただしい量の情報があふれている。便利な半面、自分の意思で物事を判断していける力=「情報を見抜く目」こそ大切で、これからの世の中を生きていく能力が必要だと考える。
 昨年、5年生の社会の情報単元で、子どもたちが身の周りにあふれる情報を何の疑いもなく受け取っていることを知り、がくぜんとした。
 「いつでも、どこでも読むことができる」という新聞の特性を生かし、さまざまな新聞記事を直接比較してみたらどうか。以前から行っていた朝会のニュース紹介の取り組みに加えて、「新聞1面写真の比較」に取り組んだ。
 5年生にとって新聞記事は非常に難解であり、記事の中身まで踏み込んだ比較は限られた時間では不可能だと思い、視覚に訴える形をとった。
 児童は朝、テレビで大きなニュースについて見てくることが多い。2つの新聞の1面を黒板に掲示し、ニュースを簡単に解説した。そのうえで写真から受ける印象を話し合った。ニュースそのものに対する受け取り方も変化していった。特に異なったニュースの場合、どんな読者を想定しているのか、児童と考えた。
 今年1月、航空自衛隊のイラク派遣の報道では、隊旗に見送られる自衛隊員の行進写真と、見送りの女性と握手を交わす自衛隊員の姿を写す2紙の違いを児童は感じた。勇ましい写真と家族の不安を感じさせる写真の違いを児童は読み取った。
 「新聞やニュースはどれも同じだと思っていた」「新聞によって中身が違うなんて思いもしなかった」など、児童は比較の手法によって「なぜ扱いが違うのか」という疑問が生じた、と感じた。
 「情報のとらえ方」が1つでないことに気付いた児童もいた。このような経験を積み重ねることで、情報をうのみすることなく、自ら目的意識を持って、主体的に情報にかかわっていこうとする力を付けていくことができれば、と考えている。
 情報を収集し、見抜き、正確に判断、そして相手に伝えるために整理し、メッセージをきちんと届くように伝える-この一連の力が情報社会に生きる子たちに求められている力の根幹だと考える。
 違う視点で多面的に新聞をみることで、子どもたちがさまざまな分野で考えるきっかけになる、と考える。

 イラク人質事件と人間愛
 国際社会の生き方模索 寺田勉・山口県豊北町角島中学校校長の報告
 3年の道徳の時間「人を愛する心」「人間愛」について新聞を教材に、「世界の平和とボランティア活動」のテーマで学習した。「メディアリテラシーを育てるNIE学習の方法原理」を私の研究課題として取り組んだ。
 イラク戦争の長期化の中で、日本人もさまざまな面で関係した。拉致されて命を奪われそうになりながらも、「イラク人を嫌いになれない」と話した高遠菜穂子さんの発言から、どの国の人々とも人間として尊重しあう崇高な精神にふれさせる。そのことによって世界平和について考えようとする心情を養うのが狙い。
 解放後の新聞記事で、高遠さんが「何度も死を覚悟」「殺されると思った」など恐怖の体験を語りながらも、「イラク人を嫌いになれない」と発言した思いに生徒がどんな感想を持ったのか。
 平和や命について、あまり中学生同士の会話はないと思う。だが、授業を通して、「高遠さんはすごい」「僕もイラクなど貧しい国へ支援するボランティアになりたい」「そんな恐怖を受けてこうした言葉は私にはできない」など、自己責任論が吹きまくった世論とは別の意見が目立った。
 「迷惑をかけた人」という見方だけでなく、国際社会での新しい生き方を高遠さんの姿から感じた生徒もいた。心に揺さぶりをかけられ、自分の考えについて葛藤(かっとう)する生徒をみて、ほぼ授業の狙いを達成したように思う。
 イラクの人がどうとらえているのか。マスコミで伝わりにくいことにも目がいき、現状容認ばかりでなく、歴史を学ぶ必要を感じた生徒もいた。生々しい出来事を取り上げることで、反応が違ってきた。無関心かつ単純で短絡的な物の見方から、生徒が変わりつつあると感じている。

 「なぜ」と問う
 情報の背景読み解く力を 小原友行・広島大大学院教授
 新聞を読んだ高校生の感想に「新聞には喜怒哀楽がある」という表現があった。NIEの教材活用では、記者が判断する基準は何かを考え、喜怒哀楽が読み取れる記事を大切にしたい。「行動する市民」の生き方を、新聞から子どもたちがつかめるよう教師は指導してほしい。
 多くのメディア情報がある中で「なぜ、新聞なのか」という声をよく聞く。新聞を作り、意見をまとめ、比較することによって、新聞はもっとも優れた学習教材になり得る。複数紙を読み比べ、「なぜ」と問い、考えていくことで情報の背景を読む。問いを見つけながら読んでいく。新聞社の紙面作りにおける価値判断を読み解くのがメディアリテラシーとなる。
 平和や共生のキーワード、テーマの重要性をつかまえて先生は取り組んでほしい。メディアリテラシーを育成する日本型のNIE学習の方法として、情報をクリティカル(批評的)に考える活動が望ましい。
 生徒たちが、自分たちで取材し、新聞を作るのがNIEの究極の姿ではないのか。新聞記者の方々には、子どもたちの記憶に残る「感動する記事」との出合いを期待したい。市民を育て、民主主義を守っていく視点も大切にしてほしい。
(2004年11月1日掲載)

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