出雲・浜山中 「命」を考える 取材の感想5行詩で表現

浜山中学校の生徒が作った新聞。それぞれの感性で切り取った「命」が詰まっている
 出雲市立浜山中学校(同市松寄下町)では本年度、「命と向き合う人々」をテーマに消防署やがんサロンなど、命にかかわるさまざまな現場取材やインタビューを通して、新聞記事にまとめる学習を行った。誕生する命、救われる命、生き抜こうとする命-。中学1年生がさまざまな「命」と出会い、考えた取り組みを紹介する。


 見出し、インタビュー記事、取材の感想、感じたことを5行で表す5行詩で構成されたA4サイズの新聞には、生徒がそれぞれの視点で切り取った命の断面、取材相手の珠玉の言葉が凝縮されている。

 緊迫の出動場面にも遭遇

 出雲消防署では、火災現場などで命を救う人々を取材。取材中に2度通報があり、取材相手が表情を引き締めて飛び出していく、緊迫した出動場面にも遭遇した。

 妹尾将太君は「現場は、常に不幸なことがあった人の所なので、うれしい仕事はなく、つらいことがほとんどです」との言葉から、消防署の仕事の現実を知った。その現実を「幸せな人のところには行けない」という見出しで表現した吾郷佳奈さんは、命を救われても、入院が長引いて仕事を失うなど、その後の生活に苦労する人もいると知り、「自分が助けたつもりでも、元の生活に戻るまでは、完全に助けたとは言えないでしょう」という消防士の言葉で、実情を浮き彫りにした。

 堀江満里奈さんは、消防士に大切なことは技術や体力に加え、仲間や患者に対する「優しさが一番大切」との言葉が心に残り、取材の感想で「どんなことがあっても、忘れてはいけないことは、優しさだと思いました」と結んだ。

 一日一日を大切に生きる

 島根大付属病院、県立中央病院にあるがん患者交流拠点「がんサロン」に出かけた生徒たちは、病気と闘うつらさだけでなく、病気になって得た感謝の気持ちや心境の変化に遭遇した。

がんサロンでの取材で熱心にメモを取る生徒
 「ガンになってちがう人生をもらった」という見出しを付けた神田康平君は、サロンに集まる人たちが明るいことに驚き、「患者さんたちは残りの命が少ないかもしれないけど、日々の生活で努力し、僕たちよりも一日一日を大切にしていることが分かりました」と取材の感想に書いた。

 高野千佳さんは、患者の「最初は不公平だと思ったけど、やがて自分はラッキーだと思った。家族に感謝する気持ちが大きくなった」「気持ち一つで病気に勝てる」という言葉に、前向きな気持ちで生きることの大切さを知った。

 曽田有菜さんは、患者の「がんになる前はただなんとなく生きていたけど、がんになってからは一日一日を大切に過ごすようになりました」との言葉が心に残り、「生きるってどんなにステキなことだろう/生きるってどんなに大変なことだろう/生きるって/とってもとっても/すごいんだ」と5行詩で表現した。

 親の愛や周囲の理解学ぶ

産婦人科での取材で、生まれて間もない赤ちゃんと対面する生徒たち
 重度の障害がある芦矢瑠美さん(18)の自宅を訪ね、母親の京子さん(50)にインタビューした生徒たちは、障害とともに生きること、親の愛や周囲の理解の大切さを学んだ。

 加藤里佳さんは、生まれて間もなく瑠美さんの障害を知った京子さんが、「治してやりたい」という一心で何軒も病院を訪ね歩き、本を読みあさったエピソードを紹介。「障害児だからじゃなく、私のかわいい子どもだからです」という母親の思いを記事にまとめた。

 また「夫と姑(しゅうとめ)、舅(しゅうと)に受け入れてもらえました。『あんたたち一人じゃないけん一緒にがんばろう』と言ってもらえました。あたたかい言葉がうれしかったです」との言葉に、障害がある人の命を支えるには、周囲の理解や思いやりが大切であると伝え、「最初は『かわいそう』と思っていたけど(中略)『るみちゃんは幸せなんだなぁ』と考え直しました」と結んだ。

 岸薫平君は、わが子と前向きに生きる京子さんを目の当たりにし、取材の感想で、「追いかけているテーマは『命』のことだったけど、死ぬとか生きること以外にも命というものはあると思いました」とまとめ、新たな命の断面を感じ取っていた。


  生徒の感想  命のメッセージ心に刻む

 取材、記事の執筆を通して「命と向き合う人々」と向き合った生徒たちは、取材相手のメッセージを心で受け取り、心に刻んだ。

 障害がある芦矢瑠美さん宅を訪れ、「死ぬとか生きること以外にも命というものはあると思いました」と記事に書いた岸薫平君は、重度障害がある人に会うのは今回が初めて。不安の中の取材スタートだった。

 「障害が思ったより重度で大変だと思ったが、お母さんが明るくてビックリした。障害があると大変だと思っていたけど、乗り越えられるし、不幸ではないと思った」と振り返る。

出雲消防署で取材する生徒たち
 訪ねた瑠美さんの部屋には、呼吸器など、彼女の生活に欠かせない道具が置いてあり、記事を執筆するときは、その様子を思い浮かべながらまとめたという。

 出雲消防署を取材し、新聞に「幸せな人のところには行けない」という見出しを付けた吾郷佳奈さんは、命を助ける立場の人が命をどうとらえているかを知りたくて、消防署を選んだ。

 取材中に2度の出動を目の当たりにし、新聞では「緊迫感を伝えたかった」。印象に残ったことが多すぎて、どこの部分を記事にするか迷ったが、考えて、一番心に残った言葉を見出しに選んだ。取材後は、サイレンを耳にすると「どこかでつらい思いをしている人がいるんだな」と思うようになったという。

 2度目の取材は、障害者への偏見が気になり、芦矢さん宅を選んだ。吾郷さん自身、寝たきりの祖父がいて、瑠美さんの母京子さんの話を通して、祖父を看護する家族の思いを考えることができたという。

 「命は、生まれてから何事もなく幸せにいくのが一番いいんだろうけど、障害のある瑠美さんのために頑張っているお母さんを見て、生きるって幸せになるために頑張ることなんだと思った」と、振り返った。


  浜山中の取り組み  「私が出会いたい人々」テーマに学習

 同中学校では本年度、1年生の総合的な学習の時間で、「私が出会いたい人々」をテーマに、「命」「福祉」「異文化」「食と農」の4つのコースに分かれ、社会の在りようや生き方を考える学習を行った。

 「命」のコースでは、「命と向き合う人々」をテーマに、40人の生徒が自分の行きたい取材先を選び、消防署、産婦人科、子育て支援センター、がんサロン、障害児の家族、葬儀社、救急外来を訪ね、当事者に取材した。

 取材し新聞を作るという手法を取ったのは、自ら現場に出かけ、五感を総動員して相手の言葉の重みを受け止め、感じ取ってほしいとの考えから。生徒は少人数のグループで取材に出かけ、それぞれの感性でインタビューする形式で記事にまとめ、自ら見出しも付けた。新聞作りは、取材先を変えて2回行った。

2007年3月31日 無断転載禁止

こども新聞