石見銀山遺跡の世界遺産登録 鍵握る外交努力

 大田市の石見銀山遺跡の世界遺産登録へ向けた取り組みの場が、いよいよ大詰めの国際舞台へ移る。文化庁と島根県、大田市が、国際記念物遺跡会議(イコモス)の「登録延期」勧告を覆し、関係国などを説得するための追加情報を1日、固めたためで、“逆転劇”への明確なシナリオは見えないなか、今後は外務省を中心とした手探りの外交努力に注目が集まる。

 「本当は国内での理解を深めてもらうためにも内容を表に出したいところだが、世界遺産委員会に影響を与えては困るんだ」。国、県、市の担当者が、イコモス勧告への政府見解と追加情報をとりまとめた1日、文化庁記念物課の岩本健吾課長は険しい表情で話した。

 文化庁などにとって、同遺跡の学術的価値に疑問符を突き付けたイコモス勧告に、具体的論拠を示す追加情報を公表することは、内外に反転攻勢への姿勢をアピールする絶好のチャンスだった。だが、登録の是非を最終決定する国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会の構成国に対し、戦略的な働き掛けを模索する外務省サイドの要請で非公開に。

 県教委世界遺産登録推進室の和田謙一室長も「実務者レベルでの協議はこれで終わり。外務省と文化庁で、どう効果的に活用するかの調整になる」と、舞台の役者が代わり、外交交渉の明暗が鍵を握るとした。

 外務省が慎重姿勢をとる背景には、単純に反論を打ち出せないジレンマがある。当初、想定したユネスコへの反論書提出は、地名や数字の間違いなど事実誤認の訂正しか許されておらず、現状では同委員会の議長国・ニュージーランドに受理されない可能性が高い。残された道は、事実上各国への事前説明しかないからだ。

 一方、21カ国の大使だけでなく各国の専門家も集う同委員会の特殊性から「政治的活動を積極的に行っている」との印象を与えることで、議論の場で説明の機会が与えられない恐れすらある。これまで、13件連続登録を果たしてきた日本にとって未知の体験に、有効策を図りかねている状況だ。

 「イコモスや委員国すべての代表が現場を見ることができればもっと理解を得やすいが、書面と写真で説明しなければならないところに限界がある」。外交交渉を先導するユネスコ日本政府代表部の近藤誠一特命全権大使は5月、現地視察を終え、同遺跡の分かりにくさが故の道のりの険しさを指摘した上で「委員会がどう判断するか今の時点ではまったく予測がつかない」とした。不安を抱えながらの海図なき航海は、始まったばかりだ。

2007年6月3日 無断転載禁止