(1)稲佐の浜・出雲市大社町 古代から悠久の時刻む

神々が降り立つといわれる稲佐の浜。夕日を背にした弁天島がシルエットとなって浮かび上がり、浜に厳かな雰囲気が漂う=出雲市大社町
 「稲佐の浜」 出雲市大社町の出雲大社から西方の日本海に面して広がる。「国譲り神話」の舞台として知られ、南に向かって続く「薗(その)の長浜」は、「国引き神話」で用いられた綱とされ、壮大なスケールの神話に彩られる。夏には海水浴客でにぎわい、日本の渚(なぎさ)・百選の浜にも選ばれている。
古代から悠久の時刻む

 不思議な光景だった-。新春のある日。冬にしてはとても穏やかな表情をみせた日本海を、夕日が黄金色に染めて沈みはじめた、そのとき。浜辺を訪れた人々の顔から一斉に笑みがこぼれたように思えた。

 ここは、出雲市大社町の「稲佐の浜」。大国主命が天照大神(あまてらすおおみかみ)の使者と、国土の統一に向けて国譲りの交渉を繰り広げた神話の舞台。そして、今も旧暦十月の神在月(かみありづき)に、全国から出雲に集う八百万(やおよろず)の神々を迎える地だ。

 近くには国譲りの交渉が行われた「屏風(びょうぶ)岩」や、神様が力くらべをしたとされる「つぶて岩」もある。大きな弧を描く砂浜は、「国来国来(くにこくにこ)」と、南西に望む佐比売山(三瓶山)を杭(くい)に対岸の国を引き寄せた、国引き神話の綱とも例えられる。

 日没とともに、浜辺の近くにある弁天島の輪郭が、シルエットとして浮かび上がる。

 「もしかして、この島が国譲りの交渉で天照大神の使者が浜辺に突き刺した剣なのか…」。そんな歴史ロマンをかき立てられたのは私だけだろうか。

 辺りに目を移すと、カップルが夕日に導かれるように、仲むつまじく浜辺を散策している。たこ揚げに興じていた子どもたちは、沈む夕日の名残を惜しみながらその手を止めた。この時を待っていたカメラマンたちは一斉にシャッターを切っている。その表情はどれも、穏やかだ。

 壮大な神話のロマンと、人々が大切に守り続ける神々への信仰。神の国の原風景ともいえるこの地が持つエネルギーが、訪れる人々を優しく包み込み、安らぎを与えるのかもしれない。

 古代から、悠久の時を刻む稲佐の浜。出雲人にとって、出雲人であることを最も実感させてくれるこの地を、いつまでも守り、伝えたい。


2008年1月28日 無断転載禁止