プロローグ・天の恵み 先人の知恵

 山陰には、誇れる歴史や文化、自然が残されている。社会構造が変化し、自立的な発展が次世代の課題となる中、先人が守り伝えたこれら地域の遺産は、豊かで特色のある郷土づくりの道筋を照らしているようにみえる。その象徴とも言える石見銀山遺跡は昨年、ユネスコの世界遺産に登録され、自然と共生しながら銀の採掘を進めたその姿と先人の知恵は、島根県を国内外に知らしめる大きな力となった。

 地域の誇りと勇気を呼び起こしてくれる郷土の遺産。山陰中央新報社は、それらの姿を取材し記録する連載企画「未来に伝えたい~山陰の遺産」をスタートする。その一端を本編のプロローグとして紹介する。

復活した隠岐国分寺の蓮華会舞。伝統の舞を地域のきずなが支えている=島根県隠岐の島町



「雅」 伝統行事

 <蓮華会舞>
 隠岐の島町の隠岐国分寺に伝わる伝統の舞「蓮華会舞(れんげえまい)」。宮廷舞楽の流れをくみ、平安時代から伝わる優雅で素朴な舞は国の重要無形民俗文化財にも指定され、地域で大切に継承されている。

 昨年2月、同寺本堂が火災に見舞われ、大切な面や衣装などを失ったが、隠岐国分寺蓮華会舞保存会が中心となり復元。11月の隠岐乃国伝統芸能祭で舞を復活させた。

 道具の焼失は住民にとって大きな出来事だったが、蓮華会舞復活への道のりは、継承への強い思いを呼び起こし、地域のきずなをより深くしたに違いない。

安蔵寺山の原生林。大自然の営みは、今も豊かな自然をはぐくんでいる=津和野町日原


「雄」 自然遺産

 <安蔵寺山>
 島根県益田市の南部にそびえる安蔵寺山(標高1,263メートル)には、県内でも数少ない原生林が残る。樹齢数百年の天然スギやブナ、ミズナラが林立する約180ヘクタールに及ぶ山の一角は、かつては人々の侵入を許さない「不伐(ばつ)の森」と呼ばれ、地域で大切に守られてきた。

 分け入ると、天を突くように林立する巨木の数々。大自然の営みそのままに密集する木々たちは、ところにより光の侵入も拒み樹皮はこけむしているが、山肌はみずみずしく、澄んだ野鳥のさえずりも響く豊かな自然が息づいている。



「厳」 歴史・文化

光を浴びて夕闇に浮かび上がる出雲大社本殿。その姿は神々の国のシンボルとして訪れる人々の心に映る=出雲市大社町
 <出雲大社>
 大国主大神をまつる出雲大社は、山陰を代表する歴史・文化遺産であり、その姿は国内外に広く知られている。中でも、日本最古の神社建築様式で国宝の本殿は、変遷を経て現代の姿に至っているが、2000年に境内で発掘された巨大な宇豆柱(うづばしら)は伝説の巨大神殿の存在も連想させ、古くから多くの信仰を集めた出雲大社のスケールを物語る。

 毎月1日と15日。境内が夕闇に包まれるころ、その本殿がライトアップされ、ひときわ異彩を放つ。八雲山のふもとに浮かび上がるその姿はたくましい生命力を感じさせ、出雲大社が時空を超えて、神々の国に暮らすわれわれのシンボルであることをあらためて認識させる。

織り手により伝承される浜絣には、母親から子へ伝えられた地域のくらし文化がある=米子市大篠津町、アジア博物館の染織工房


「継」 伝統工芸

 <浜絣>
 鳥取県米子市に伝わる浜絣(かすり)。その歴史は江戸時代末期にさかのぼる。米子市は当時、有数の綿の生産地として知られ、各戸で着物などに使う自家用の藍(あい)染めの織物が盛んになった。

 藍と白のコントラストが美しい浜絣。家の繁栄を願い織り込まれた花鳥風月などの模様には、織り手の家族に対する「愛情」がこもり、母親から子へと技術が伝わった。

 服飾の多様化などで日常性は失われつつあるが、今も伝統の技を伝える織り手たちにより、その歴史と風合いが受け継がれている。



「匠」 食文化
菓子どころ松江には今も和菓子職人の伝統の技が息づいている=松江市矢田町


 <和菓子>
 江戸から現代まで、城下町・松江に伝わる和菓子文化。紅白に彩られた松江銘菓「山川」は、その代表格で、日本三銘菓の一つ。

 松江藩七代藩主で茶人の松平治郷(不昧)の好みの菓子で、江戸から明治にかけて一時は姿を消したが、老舗菓子店「風流堂」が復元。その姿と味を今に伝えている。

 材料は、砂糖ともち米と水。湿度や温度に敏感で、常に同じ食感に仕上げるのが職人の技だ。手間暇を惜しまず手作業で一つ一つ仕上げる山川。伝統に向き合う職人の姿が、山川のみならず、菓子どころ松江の和菓子文化を支えている。

2008年1月1日 無断転載禁止