(11)旧江尾発電所 大正の面影残す石造建築

重厚な石組み建築が見る人を圧倒する旧江尾発電所=鳥取県江府町
 大山の麓(ふもと)、鳥取県江府町の米子自動車道江府インターチェンジを降り、日野川沿いに車を走らせると、旧中国電力江尾発電所の建物が目に飛び込んできた。いかにも時代を感じさせる重厚な石組みが特徴で、周辺の山に見事に溶け込んでいた。

 近年、日本の近代化を支えた産業遺産の価値が見直され、この旧江尾発電所も現在日本に残る十一カ所の石造発電所の一つとして注目を集めている。

 約九十年前の大正期に建築されたこの本館(平屋一部二階建て)は、日野川流域の人々に水力発電による電気を生み出す大切な役目を果たし、住民の日々の生活を支えた。ごつごつした重量感のあるルスティカ仕上げの本館外壁、おしゃれなアーチ型の窓といった外観は当時のままで、独特の味わいを感じさせる。イタリアの田舎に迷い込んだような気分にさせてくれるのも不思議だ。

 屋根はキングポスト・トラスという西洋の屋根構造によって瓦ぶきの屋根を支えていたが、歳月を経て近年、金属板にふき替えられている。当時としては、かなり先進的な技法を取り入れていたことに驚かされる。

 まぶしかった強い日差しが雲に隠れ、壁面が色濃く浮かび上がった。バットレス風の付け柱が見事だ。窓越しに中をのぞき込む。コンクリートがむき出しだが、近くに古いポンプ車が置かれ、この空間だけ、時間が止まっているような感覚を覚えた。

 昨年三月には、この建物を舞台に「とっとり産業遺産シンポジウム」が開かれ好評だった。同町の伊藤友昭副町長は「ミニギャラリーやコンサートのイベント会場など、文化的な活用ができればと思っている。この建物が地域文化の起爆剤になればいいのだが」と話している。

 大正期の面影をそのまま残す県内唯一の石造建築物が再び脚光を浴び、地域の産業遺産、シンボルとして広く活用されることを願わずにはいられない。


 旧江尾発電所 中国電力の前身の山陰電気が発電所本館として1919(大正8)年に建設し、77(昭和52)年まで稼働。下流の伯耆町(旧溝口町)に新川平発電所が建設されるのに伴って、変電所として使われた後、90(平成2)年に長い歴史の幕を閉じた。その後、江府町が中電から無償で譲り受け、倉庫として活用されてきた。96年には「県民の建物百選」に選ばれた。また、土木学会の平成19年度選奨土木遺産に認定されている。

2008年8月11日 無断転載禁止