(14)三瓶山自然林 生命はぐくむ緑の揺りかご

国立公園三瓶山の自然林。木漏れ日が差すゆったりとした空間が訪れた人を包み込む=大田市三瓶町
 森に踏み入るとうっすらと冷たい空気を肌に感じる。周りにはうっそうと木々が立ち並び、頭上を”緑のアーケード”が覆う。所々、天からこぼれる木漏れ日が何か温かい空間に感じる。

 国立公園三瓶山の男三瓶山(おさんべさん・約一、一二六メートル)。その北側斜面に広がる自然林内の自然観察モデルコースを歩く。コースはブナ林やミズナラ林を中心とした森を通り、姫逃池まで通じる約二千五百メートルの遊歩道。時折、オオルリかキビタキだろうか、野鳥のさえずりが響く。

 「昔からの自然林が本当によく残っている」とコースを案内してくれた島根県立三瓶自然館サヒメルの学芸課主任研究員、皆木宏明さん(33)。

 自然林のある三瓶山は独立峰。約十万年前に噴火活動を始めた中国地方では最も若い火山でもある。

 コースを歩いていると足元に赤茶色の小石が目立つ。デイサイトという火山岩で、約三千五百年前ごろに噴出した溶岩が固まったもの。これらが積み重なり、形成された地層は雨水を地下に吸い込みやすい。地下にたまった水から育ったシバなどの草木植物が腐葉土として地表近くに土壌をつくり、水分をためて、さらに大きなシデやブナを育て、長い時間をかけて自然林を形成したと言われている。

 自然林には、百三十二種類以上の動物と千五百種類以上の昆虫、千百四種類以上の植物が生息する。中にはウスイロヒョウモンモドキのような国内でも生息地が数カ所のみという国の「絶滅危惧(きぐ)I類」に指定されているチョウもすむ。自然林はこの地域の自然の揺りかごの役割も果たしている。一方、三瓶山の草原地帯と合わせて、昔から林業や農業の関係者が伐採や植林、採草を行い、人と共存し育ってきた一面も持つ。

 この自然林は大山など、ほかの自然林に比べると緩やかな傾斜地に存在する。おかげで自然林内を歩く負担は比較的少なく、高齢者や小学校低学年の自然観察にも大変向いているという。

 「自然林は自然を求めて訪れる県外の観光客には癒やしの空間、地元の人にはその存在で安心感を与えている」と皆木さん。「自然林や三瓶山の魅力をもっと山陰の人に知ってもらいたい。そのためにももっと頑張らないと」と話す。

 古来、幾多の生命を包み、はぐくんできた自然林は今もゆったりと横たわる。


三瓶山自然林 男三瓶山を中心にした約100ヘクタールの森林地帯。島根県内で最大級の自然林で、男三瓶山北麓(ほくろく)から室(むろ)の内にかけて広がる自然林が1968(昭和43)年に国の天然記念物に指定された。植生はふもとはイヌシデ中心のシデ林、標高が高くなるに従いミズナラ林、標高800メートル以上から山頂付近まではブナ林を中心に広がっている。

2008年10月6日 無断転載禁止