(17)絵図で知る松江藩 其の二 雲州公御上京御行列

【雲州公行列の絵巻】島根県の実業家で美術研究家として知られる桑原羊次郎コレクションの一つ。現在は3巻に表装されているが、欠損した部分が相当あると思われる。献上品や宮中参内に必要な衣装など荷物が多く、参勤交代の行列とは比較にならない大規模な行列だった。絵巻の説明をする浅沼政誌さん(右)と岡宏三さん=出雲市大社町、島根県立古代出雲歴史博物館
【金銀七宝造真太刀(松江神社所蔵)】孝明天皇の即位の大礼で宮中に参内したとき、9代藩主が身に付けていた太刀。生涯に一度だけ使われたといわれている。現在も美しい輝きを放っている。「実際に見るのは初めて」と話す松平家の現当主直寿さん(83)(左)と尚子夫人=松江市、松江城内の松江神社
【瓦版】手前の瓦版は数枚をつなぎ合わせたものでサイズは縦約30センチ、横約77センチ。奥の3枚セットの瓦版も同じ版木から刷ったもので、いろいろな形で刷られた。瓦版には家老の乙部九郎兵衛を筆頭に数十人の名前が読み取れる。冒頭、葵の紋の下には、行列は幕府の役人、重臣も多数加わり、「総勢1万人余」と記されている。日光東照宮造営の参拝では10万人ともいわれており、この数字も現実味を帯びてくる
【藩主の駕籠】多くの藩士に囲まれ、藩主が乗っていると思われる。警護の目が少なくなる後方に多数集まっているのが特徴といわれている。売りに出された完成図も全く同じ図柄で、前後には葵の紋が付いた多くの荷物を担ぐ家来たちが描かれていた
 長さ32メートル大名行列絵巻


 昨年春開館した出雲市大社町の島根県立古代出雲歴史博物館(歴博)の収蔵庫に三巻の絵巻が保存されている。その三巻を合わせた総延長は三十二メートルにもなる。絵巻の表題は「雲州公御上京御行列」。長年、松江藩の参勤交代の大名行列と思われていた。

 しかし、最近になって、実際は一八四七(弘化四)年、孝明天皇の即位の大礼に将軍(徳川幕府)の名代として上京(京都御所)した九代藩主松平斉貴(なりたけ)の行列を描いた絵巻の下絵だったことが判明した。同博物館の浅沼政誌交流普及グループ課長(48)と岡宏三専門学芸員(42)の解説を受けながら見た絵巻の紹介をする。

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 絵巻の撮影は、資料閲覧室に畳を敷くことから始まった。当時、絵巻が実際に何巻描かれたか分かっていないが、同博物館に残っている絵巻は三巻。畳を部屋いっぱい縦に七枚並べて絵巻を広げていったが、それでも足らず、一部は巻いたままの状態で撮影せざるを得なかった。

 この三巻の絵巻には藩主を乗せた駕籠(かご)を中心に、槍(やり)や荷物を担ぐ家臣たちの姿が詳細に描かれている。荷には葵(あおい)の御紋、行列の中に描かれた人物の数は総勢七百七十一人にも上る。

 同博物館には、この行列を紹介した瓦版も保存されている。この中には、行列の絵とともに多数の名前が記載され、絵巻には含まれていない情報が満載されている。例えば、藩士の履歴書といわれている松江藩の烈士録と照合すると、当時の松江藩の組織図まで浮かび上がってくる。

 また、実在していた人物たちが絵と人名で正確に記録されていて、「たかが瓦版」などと侮ってはいけない貴重な史料だ。描かれている荷物の形や覆い布の色、服装や荷札などの名前からも、当時をうかがい知る事実が多数あることに驚いた。

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 今年五月、同博物館にある下絵の絵巻と図柄がピッタリと一致する絵巻の完成図が、京都の古美術商から売りに出された。古美術商が制作した図録には、絵巻の全長は百メートル余りと記載され、絵巻の一部(数メートル程度)を収載していた。

 その絵は淡彩ながら、多色で細密に描かれていて、博物館の絵巻と比較すると格段に色鮮やかだった。絵巻の長さからみて、描かれている人物は千人を超えるという。さらに、博物館の絵巻には無かった、江戸の松江藩上屋敷の門が巻末に描かれているのも注目される。

 同博物館側が絵巻の存在を知ったときにはすでに売却された後で、現在の持ち主は不明のままだ。図録だけでしか見ていない岡専門学芸員は「ぜひとも里帰りさせて紹介したい」と未確認の絵巻に思いを募らせていた。

2008年10月14日 無断転載禁止