(20)山内のカツラ 春を告げる炎の神木

菅谷たたらの横で炎のように色づいたカツラの花。大自然に溶け込み神秘的な雰囲気を漂わせる=雲南市吉田町
長い歴史を感じさせる菅谷たたら内部
 春の淡雪が降る午後、たたらの故郷として知られる雲南市吉田町の山内地区を訪れた。ひっそりとした集落の入り口、国の重要有形民俗文化財「菅谷たたら」の脇に立つ、カツラの花が色づき、谷あいの深い緑の中にコントラストを描いていた。

 カツラは高さ約二十メートル、幹回り約四メートルもある巨木で、樹齢は約百三十年という。製鉄の神「金屋子(かなやご)神」が降臨したという言い伝えがある神木で、毎年この時期に三日間ほど燃えるように色づく。

 小高い丘から見下ろすと、枝を覆い尽くすように紅色の花が広がり、神々しい光景に息をのむ。山内生活伝承館の朝日光男施設長(63)は「今年は例年より十日ほど早く見ごろを迎えた。待ちかねた人たちを喜ばせています」と話してくれた。

 菅谷たたらの内部に足を踏み入れた。吹き抜けで地面から棟までの高さが約八・六メートルもある。中央のたたら炉を覆う空間には、独特な雰囲気が漂っている。鋼づくりに携わった「鉄の男」たちが、カツラの木に願を掛け、三日三晩不眠不休で行った炎との闘いを想像すると、心が躍った。

 午後五時前、雲の切れ間から太陽が一瞬、顔をのぞかせた。この日、一度きりのシャッターチャンス。逆光ぎみにカメラを構えると、カツラの枝がたたらの炎のように色づき、天に向け燃え上がったように見えた。



 菅谷たたら 高殿様式として国内で唯一現存するたたら製鉄の操業施設。1751(宝暦元)年に建設、その後、1921(大正10)年までの170年間、和鋼生産が続けられた。経営は田部家が行った。「菅谷たたらとカツラの木」は2008年度のしまね景観賞の大賞に選ばれている。

2009年3月30日 無断転載禁止