(26)絵巻を読む 松江藩の大名行列

【藩主のかご】青色の着物は六尺(かごの担ぎ手)と手替(交代要員)。黒色はかご側で警備に当たる藩士。かごはこの他に山道専用の山かごも描かれている
【上屋敷御門】上屋敷の門がカラーで描かれたのは新史料。行列の殿(しんがり)は家老の乙部九郎兵衛の部隊が務める
【曲禄(きょくろく)】藩主専用のいすで、家老ら重臣たちは床几(しょうぎ)を持参した
【茶弁当】茶弁当を担ぐ人足を先頭に2人の茶坊主とお茶用の水を入れた水桶が続く
【草履取】藩士たちの履き替え用の草履持ち
【飾弓】文字通り装飾を施した弓。藩の威厳と行列を引き立たせた
 全長100メートル精巧な大作

 今回は「絵巻を読む」をテーマに先日、松江市が購入した松江藩九代藩主・松平斉貴(なりたけ)上洛絵巻を紹介する。精巧に描かれた全長一〇一メートル六六センチ(全五巻)の彩色絵巻は単に鑑賞するだけでなく、当時の歴史を知ることができる情報の坩堝(るつぼ)でもある。

 この絵巻は一八四七(弘化四)年、孝明天皇の即位の大礼に斉貴が将軍の名代として江戸から京都に向け、松江藩の上屋敷(現在の東京・永田町)を出立する様子を描いた。同市の歴史資料館整備室の西島太郎副主任に絵巻を解説してもらった。

   ※ ※ ※

 描かれている人物は千七百六十七人と六十一頭の馬。実際の行列の長さは二キロ近くに及ぶといわれる。

 将軍の名代で行う上洛は、大名の中でも特別に選ばれた者だけに許された一世一代、最高の晴れ舞台。参勤交代の大名行列とは、けた違いに格が違う。

 かごや荷物を担ぐ者、やりを持つ者、馬を引く者。同じような人物がこれでもか、というほど延々と描かれている。しかし、よく見ると従者たちの役職や担当する職務まで分かるという。

 藩主が乗っているかごには、担ぎ手のほか、手替わりと呼ばれる交代要員、警護の徒士(かち=騎乗を許されない下級の武士)たちが表情豊かに描かれる。茶弁当の後ろには藩主との取り次ぎや湯茶の接待を行う茶坊主と水桶(みずおけ)、馬の後ろに描かれているのは馬草(まぐさ)かごと餌を与えるための馬柄杓(うまびしゃく)。草履(ぞうり)を手に持つ集団は徒士たちのための草履持ち。絵巻に登場する人物や荷物など図柄の種類は六十以上にも及ぶ。

   ※ ※ ※

 さらに、当時発行された瓦版や松江藩の列士録などと照合すると四十人の藩士の名も明らかになった。

 その中には、今回紹介できなかった家老の乙部九郎兵衛をはじめ、蛮社の獄で投獄された渡辺崋山や高野長英らと親交が深かった望月兎毛(とも)の馬上姿もある。絵巻の巻末に、明治時代の白黒写真でしか分からなかった松江藩上屋敷の門前がカラーで描かれ「上洛する行列の姿を描いた史料として完成本に近いといってよい」と高く評価されている。

 (写真・文 本社報道部 伊藤英俊)



 この企画に関するご意見をお寄せください。郵送の場合は〒690-8668、松江市殿町383、山陰中央新報社報道部「開府400年記念・松江誕生物語」係。メールアドレスsyashin@sanin-chuo.co.jp

2009年4月7日 無断転載禁止