(23)築地松 朝靄に映える

モノトーンの幾何学模様が版画的で美しい築地松=島根県斐川町坂田
 築地松を撮影しようと、夜明けの出雲平野に足を運んだ。朝靄(もや)が田園を包み、淡いベールの中で独特な風情を漂わせていた。

 築地松は、長い年月をかけて民家の西側と北側に松などを植え、屋根より高く刈り込まれた屋敷林。夏は涼風を引き込み、冬は防風林として強烈な北西の季節風を遮(さえ)ぎる役割がある。

 築地松の枝が伸びすぎると田に日差しが注がなくなるため、四、五年に一回ぐらいの間隔で、築地松の枝切りを行う。ノーテゴリと呼ばれ、ノーテは「陰手」、ゴリは「樵」の字を当てる。相当の技術を要する上、近年は職人も少なくなった。

 近年は、松くい虫被害でかつてのたたずまいは失われつつあるが、勝部幸子さん(79)(島根県斐川町坂田)は「嫁いで六十年、日本海から吹く強い季節風から家を守ってくれています。北側は松くい虫ですべて枯れてしまいましたが、これからも大切にしていきます」と話す。

 生まれた時から出雲平野で暮らし、築地松の写真集を手掛けた写真家の古川誠さん(56)は「四季折々に絵になる個性的な被写体です」と、松の魅力を語ってくれた。

 午前五時すぎ。薄い雲越しに朝日が昇り始めた。しばらくすると淡い日差しが松に降り注ぎ、幾何学模様のように張り巡る枝が、水を張った水田に姿を映す。版画的な美しい眺めに目を奪われてしまった。


 築地松 神話の舞台として知られる斐伊川は古代幾たびもはんらんを繰り返してきた。そのため家の周りを地盛りによって高くし、その場所を固めるため水に強い樹木を植林したのが築地松の始まり。現在のように吹き付ける季節風を防ぐため、黒松の生け垣状になったのは明治の末期と言われている。

2009年5月18日 無断転載禁止