(34)売布神社 船御幸神事

前方は嫁ケ島。かつて売布神社があったとされる袖師が浦沖で海の幸、山の幸をささげて宍道湖の恵みを祈願する同社の神職=観光遊覧船・白鳥号の船上で撮影
好奇心いっぱいの子どもたちが見守る中で、おはらいをする神職。昔は手こぎ舟、戦後間もないころは合同汽船で宍道湖と大橋川を往来した。その当時から子どもたちも船御幸神事に参加しているという=観光遊覧船・白鳥号の船上
櫛八玉神を祭る和田津見神社。御神霊とともに宍道湖へ出発=松江市和多見町、売布神社
船窓から見える塩盾島。小さなほこらがあり手間天神と呼ばれている。現在の祭神は少彦名神(すくなびこなのかみ)だが、かつては速秋津比売神の夫、速秋津日子神(はやあきつひこのかみ)が祭られていたとも伝わる。白鳥号はここで折り返す=松江市矢田町の大橋川
豊漁と航行の安全祈る

 漁業や舟運、観光など水郷・松江の産業をはぐくむ上で欠かせない宍道湖。海水と真水が入り混じり、古くから豊かな恵みをもたらしてきた。新大橋の南詰めに鎮座する松江市和多見町の売布(めふ)神社(青戸良臣宮司)は古代から、湖の豊漁と航行の安全を祈る船御幸(ふなみゆき)神事を継承し、宍道湖とともに歴史を刻む。

 7月12日、嫁ケ島に船首を向け宍道湖で停船した観光遊覧船・白鳥号から笛と太鼓の音が響き渡った。特設された祭壇の前で青戸宮司が「海、川の幸さわさわ(たくさん)に得さしたまえ」と祝詞を奏上。船は宍道湖から大橋川へ、白波を立てて進む。

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 売布神社の「売布」は、海藻や草木が豊かに生えるという意味。主祭神は湊(みなと)の守護神・速秋津比売神(はやあきつひめのかみ)、境内の和田津見神社には櫛八玉神(くしやたまのかみ)を祭る。

 同神社の社伝によると、宍道湖とのかかわりは古事記の国譲り神話にさかのぼるという。国譲りの儀式を終えた大国主神から祝宴の担当に指名された櫛八玉神は、宍道湖で捕った大きなスズキを調理して奉納した。櫛八玉神が漁業や調理の神とされる由来だ。

 宍道湖を象徴する魚として登場したスズキは、古代から出雲国の特産。平城京から発掘された木簡に、塩漬けされて送られたと思われるスズキの記載があり、文献に記された最古の魚とされる。出世魚としても知られ、めでたい席に用いられた。

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 「すずきまつりの橋姫さまは

    こいし和多見のまもり神」

 この歌は、有名な童謡作家・野口雨情が1935年、松江を訪れた際に詠んだ。「橋姫さま」は売布神社の別称。毎年10月10日には、同社の例大祭の御饗(みあえ)神事として、「すずき(鱸)祭り」が営まれる。神事後、参列者にスズキの吸い物が振る舞われる習わしという。

 松江湖とも呼ばれた宍道湖の豊かな幸に感謝するとともに、末永い恵みに祈りをささげる。船御幸神事と合わせ伝統的な文化遺産とも呼べる神事を通じ、神話の世界に思いをはせながら、松江と宍道湖の歴史を考えてみるのも面白い。

(写真・文 本社報道部・伊藤英俊)



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2009年8月10日 無断転載禁止