(37)幕末史を飾った八雲丸(中)

【上野彦馬の写真館】日本の写真の開祖といわれている長崎の上野彦馬の写真館で撮影した。前列中央が岩佐徳右エ門。後列右端が藤間勇蔵。他に岩佐禄一、山本久右エ門、田口園七、速見兵助の名前が裏面にある。手にする傘は当時、文明のシンボル的存在だった。撮影時間は数分といわれ、藤間の顔がぶれているのは「武家と違い長時間の静止に慣れていなかったのだろう」(藤間亨)という(藤間家所蔵)
【商人の長崎行日記】アルファベットの大文字、小文字、筆記体のほかアラビア数字なども書き写されている長崎行日記。商人の旺盛な好奇心が感じられる(藤間家蔵)
【日本最古のオルゴール】現在も現役で奏でる日本最古のオルゴール。メロディーは旧イタリア国歌とオペラの2曲。ふたに書かれた文字をしまね国際センター=松江市殿町=で翻訳してもらったらイタリア語で「国歌、解き放たれた感覚の声」と「囚(とら)われた燕」だった(美保神社蔵)
【出島の切り絵図】出島が描かれている長崎の切り絵図。藤間家所蔵は市街地が中心に描かれている。居留地は一等地から順に黄、青、赤の3色に色分けされ、日記にも登場する”オオルト”の名前が書かれた付箋(ふせん)が添付されている
【出島の切り絵図】出島が描かれている長崎の切り絵図。鈴木家所蔵は居留地が中心に描かれている。居留地は一等地から順に黄、青、赤の3色に色分けされ、日記にも登場する”オオルト”の名前が書かれた付箋(ふせん)が添付されている
長崎を往来異文化運ぶ

 江戸時代は鎖国の時代といわれている。しかし実際にはオランダ、中国、朝鮮、琉球などと交流があり、さまざまな文物や情報がもたされていた。当時の松江藩も外国に強い関心を持ち、中国や西洋の書籍などを積極的に取り入れ、医学などの学問が大いに発展した。やがて幕末になると、外国に留学し近代の日本の政治や島根の近代化に大きな役割を果たした人物も現れた。

 大社町の藤間家に残る日記「長崎行日記」からは、そんな文明の光に導かれて松江藩の藩士や商人たちが蒸気船に乗って長崎に向かう光景がうかがえる。航跡とともに文化、文明を運んできた第二八雲丸を紹介する。

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 慶応3(1867)年6月27日。第二八雲丸は松江藩の役人と回船問屋藤間穂左衛門(現出雲市大社町)を乗せて美保関を出航。今回の目的の一つ、隠岐の島に保護されている琉球国の漂流民3人を長崎に送り届けるため、八雲丸は島後の港を経由して翌月7日朝、35隻以上の蒸気船が停泊している長崎港に到着。

 翌日の日記には「異人館5軒に参り、大砲・異船と船型を持参」と記述されているほか、貿易商オオルトの名前や造船所を訪れるシーンが再三登場する。

 漂流民については当時琉球を統治していた薩摩藩と連絡を取った結果、12日、無事に引き渡しができたと記録があるのみで、軍備増強や次の新船購入に向けた準備や海外の情報収集に重点が置かれていたことをうかがわせる。

 一方、異文化に出合った一行たちの感動と驚きも多数書き記されている。

 異人館で目にした夏服の美しい夫人が男性と手を取り合って散歩する光景、初めて口にするランビキ(ウイスキー)、何万両かかるか分からないほど立派な異人館、オルゴールが奏でる不思議な音色、16日には国内で評判になっていた上野彦馬の写真館で記念撮影もしている。見るのも、聞くのも初めてと思われる異国の文化に対する感動の日々が随所に書き残されているなど、日記は公文書では知ることができない世界を垣間見させてくれる。

 日記を解読した島根県の古代文化センター岡宏三専門研究員は「産業革命で発展した外国の機械産業を目の当たりにした驚きとともに、御用商人をはじめ官民一体になって藩政に取り組む姿がうかがえる」と話す。

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 八雲丸が運んできたものの一つに、美保神社に保存されている国内最古といわれているオルゴール(国の重要有形民俗文化財)がある。鳴り物好きの神様に奉納された逸品として知られているが、第二八雲丸に乗って長崎から運ばれてきたことは意外と知られていない。

 オルゴールは元治元年6月、当時松江藩の海軍奉行だった松原木工が長崎で手に入れた逸品。ぜんまい仕掛けで誰も聞いた事がない音色を奏でる小箱は魔法の小箱だっただろう。

 今回の取材では2点の長崎切り絵図も見ることができた。1点は出島と市街地(藤間家所蔵)、もう一点は出島と居留地(鳥取市湖山町北、鈴木家所蔵)。2点を並べてみると出島を中心とした長崎の様子がよく分かる。録音してきたオルゴールの曲や上野彦馬が撮影した写真などとともに日記を読んでいくと、これまで活字でしか知ることができなかった幕末の様子や八雲丸の航跡、乗組員たちの姿が、絵巻のように浮かんでくる。

(写真・文 本社報道部・伊藤英俊)


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2009年10月5日 無断転載禁止