(42)江戸時代の相撲見立番付

【40点の資料発見】松江市文化財課の沼本龍専門調査員から確認された見立番付の説明を受ける神田忠興さん(左)=出雲市下古志町、神田さん方
【大日本神社仏閣参詣所角力】出雲大社が勧進元で登場する
【雲陽国益鑑】「蒙御免」の太文字の下には「国内の産物は数々あるが、ここに挙げるのは他国から金銭を得る国益となる物を、席を定めてご覧にいれます」とうたっている。勧進元は、最も多い尾道送りの出雲産の米で、これは別格。頭取は、出雲大社参詣の際の祈祷料からお賽銭までの収益。木綿、朝鮮ニンジン、和紙、ろうそくなど89の品目が記されている
【うそくらべ見立評判】48種のうそが取り上げられている。深刻なうそではなく、社会の潤滑油になりそうなものが多い
【諸国名俳諧士見立相撲】「嘉永2年改正大新版、嘉永4年11月写之」の記載がある
【大日本神事見立数望】全国の祭礼。出雲大社は別格の行司で登場する
【大日本産物相撲】「いつも(出雲)うっぷるい(十六島)のり」など県内の物産が数種類記載されている
 時代を映すランク付け

 江戸時代、番付といえば「相撲番付」を指した。それほど相撲が庶民の間に浸透し、親しまれていた証しでもある。同様に、何でもランク付けしたがる気質を反映したのが「相撲見立(みたて)番付」だ。相撲番付のスタイルをまねて、実にさまざまなものが作られている。松江市文化財課史料編纂(へんさん)室はこのほど、出雲市下古志町の神田忠興さん(61)方に保存されていた大量の古文書の中から、40点に及ぶ相撲見立番付を発見した。ひもとくと当時の庶民文化、ランク付けの妙がうかがえる。

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 神田家に伝わる番付のうち「出雲国内囲碁番付」「諸国名俳諧士見立相撲」「ながひものみじかひもの角力(すもう)見立評判」など5点は、あまり知られていない逸品らしい。特産や名物を取り上げた「大日本産物相撲」、神社仏閣の規模や祭りを紹介した「大日本神事見立数望」「大日本神社仏閣参詣所角力」もある。「文字書き違い見立て」はよく間違える誤字を集め、「うそくらべ見立て評判」「絵本太功記角力見立番付」には、当時の世相や庶民生活、楽しみがのぞく。

 出雲国内囲碁番付は、地域限定版の囲碁ランキング表で、嘉永7(1854)年秋に作られた。エリアは仁多、飯石、神門、出雲、楯縫(たてぬい)、大原、赤名、頓原、意宇郡中西組。縦51・5センチ、横90センチの紙面に900の人名と寺社が記され、各地域の名士一覧表ともいえる。

 傑作なのは、文化財課の沼本龍専門調査員が推薦する「うそくらべ見立て評判」だろう。東の大関は「女は嫌いだという若者」、西は「早く死にたいという年寄り」で始まる。NHK「道中でござる」の解説者、石川英輔氏の著書「大江戸番付づくし」(実業之日本社)に倣えば、この場合の”うそ”はホラ吹きのうそではなく、日常表現や社交の決まり文句に潜むうそを意味する。

 石川氏によると、前者は落語なら「でも男よりずっと好きだ」とオチがつく。後者は本心でなく、楽しみがないから嫌がらせを言っているだけ。

 さらに「尼になりたいという娘」は、失恋した娘の心境で、いい男を見つけてやるのが功徳となる。「辛抱しましょうという息子」は、親に説教された息子が、なじみの遊女のもとへ行かないと約束したうそ。「惚(ほ)れましたという茶屋女」「いきんすという傾城のむつ言」は江戸・吉原の遊女独特の手練手管で、現代でも通用するのは言うまでもない。

 「掛け取りに留守だというかみさま」「元値じゃという商人」「お化けがきたというお袋」「生きておりますという魚売り」など、たわいないものもある。

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 現代に至る大相撲は寺社の建築や修理の費用を集める勧進相撲が元で、番付表のスタイルは江戸時代から連綿と引き継がれてきた。中央に大書された「蒙御免」は「ごめんこうむる」と読み、お役所公認のこと。貞享元(1684)年に深川八幡宮で興行したのが始まりとされ、寺社奉行公認で頻繁に開催された。

 見立て番付の蒙御免の場合は、行司や勧進元、差添人にランク付けがはばかられる大物や別格を配したようで、制作者の思い入れがそれとなく伝わってくる。

 まさに見立番付は、ありとあらゆるものをランキング付けし、一覧表にしてきた。「決定版・番付集成」(柏書房)の編者・青木美智男さんは、”時代を映す見立番付”と題して「遊び心と一定の価値観に基づいて提供される情報。そのないまぜ的な効果が見立て番付の面白さの根源」と述べている。

 これほど楽しく、歴史を知ることができる教材も珍しい。

 (写真・文 本社報道部 伊藤英俊)


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2009年12月28日 無断転載禁止