(46)版木と出版事情

【出雲神社巡拝記】版木75枚の超大作。版木1枚の表裏両面に4ページ分。墨の代わりにカーボン用紙で刷ってみた=松江市の文化財収蔵庫
【順路の案内図】表題は「出雲三十三番霊場御案内」。「出雲札三拾三所道法順付絵図」を基に製作したといわれる版木=松江市千手院蔵
【出雲札三拾三所道法順付絵図】一番長谷寺(出雲市大社町)から岩屋寺(松江市玉湯町)までの順路図が記されている=松江郷土館蔵
 1字ずつ活字を組む活版技術が輸入される幕末期まで、日本国内の印刷、出版は職人が彫る版木が頼りだった。もっとも版木は何度も再利用され、最後は薪になったりするため、後世に残ることは珍しいという。

 そんな貴重な版木が、松江市白潟本町の園山興造さん(66)から昨年の暮れ、市へ多数寄贈された。天保4(1833)年の「出雲神社巡拝記」と安政4(1857)年の「出雲札観音霊場記」の2種で、それ自体が寺社や風土記の研究に欠かせない史料。併せて、当時の世相や出版事情がうかがえる。

 「巡拝記」は版木75枚に及ぶ超大作で、「霊場記」は園山家の前身の尼崎屋喜三右ェ門が再版したらしい。世の中が平穏になると五街道などが整備され、お伊勢参りに代表される神社参拝が盛んになるが、二つともそうした巡礼ブームの熟成期に製作されている。

 松江藩でも近世後期、出雲札三十三所巡礼(出雲札)が盛んだった。特産物や売れ筋を一覧表にした「雲陽国益鑑」には、三十三番札所が前頭2枚目の上位にランクされ、藩外から巡礼が多かったことが分かる。巡礼者向けの出版物としては、松江市の浄心寺の珪道が著した「出雲巡礼三十三所霊場記」(1798年)をはじめ、「出雲国三十三所札所めぐり」(1824)や松江郷土館所蔵の「出雲札三拾三所道法順付絵図」(1817年)もあった。

 他方、「巡拝記」は超大作というだけでなく、歴史研究家だった松江の商人渡部彝(つね)が「出雲国風土記」記載の寺社を現地踏査し、自ら版元となって発刊した歴史研究書として知られる。

 旅行ガイドの性格も兼ね備えて評価が高く、渡部彝自身が熱烈な巡礼者だったのか、喜びにも似た筆者の気持ちが伝わる内容。版木は京都の彫師による精巧な出来で、遠く離れた松江に残っていたのは奇跡に近い。

 寄贈者の園山さんは「来年3月には、松江城山の近くに松江歴史館(同市殿町)が完成する。そこで末永く残していただければ幸い」と話している。

 文と写真 本社報道部・伊藤英俊


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2010年3月1日 無断転載禁止