(35)十一面観音菩薩立像(JYUUICHIMENKANNONBOSATSURYUUZOU)(鎌倉時代)松江市大庭町 気品と

衆生救済の優しさに満ちあふれた十一面観音菩薩立像=松江市大庭町、浄音寺
 本堂の薄明かりの中で、十一面観音菩薩(ぼさつ)立像が優しさに満ちた表情を浮かべていた。松江市郊外の浄音寺にある重要文化財の木像は高さ141センチ。写真家の間に、その美しさが知られている鎌倉仏だ。近くに鎮座する神魂神社ゆかりの寺は、古代出雲のオーラにも包まれている。

 蓮華(れんげ)座におっとりと構え、胸から腰にかけての丸みは女性的な優美さを漂わせる。目、唇に彩色が施され、日本の木彫美術が頂点に達した鎌倉時代ならではの存在感を放つ。

 左手にハスの花を生けた水がめを持ち、衣装が腰のあたりで翻る。頂部の天冠には表情豊かな小さな化仏(けぶつ)十一面がはめ込まれ、これらの化仏は前後左右が菩薩修行の階位を示し、最上部の仏面は仏果(修行によって得た仏の境地)を表すという。

 衆生を救済する観音菩薩は、奈良時代から広く信仰を集めた。病気治癒など10種類の現世利益と4種類の来世での果報をもたらすとされ、躍動感ある作風からは温かさだけでなく、頼もしささえも伝わってくる。

 1921年に行われた解体修理の際、「院豪」の墨書が見つかった。京都・妙法院蓮華王院の三十三間堂に並ぶ千手観音像のうち、復興像九体の造立に携わった仏師の名で、作者と制作年代がうかがえる。

 引き込まれるように仏像の前に立ち、気品あるお顔を見上げた。ファインダー越しに慈愛のまなざしと交わった。

 (写真と文 報道部・小滝達也)


 浄音寺 出雲観音霊場の一つ。JR松江駅からバスで約20分、大庭団原で下車し徒歩数分。十一面観音菩薩立像の拝観志望者は、松江市石橋町の千手院(大北哲也名誉住職)まで連絡する。電話0852(21)1791。

2010年5月10日 無断転載禁止