(39)赤川ほたる(AKAGAWAHOTARU)雲南市大東町 またたく”星々”生命の胎動

室内を暗くすると、数千個のゲンジボタルの卵が星雲のような幻想的な光を放つ(10分間露光)。右上と右下の紫色の光は、外光が写り込んだもの=雲南市大東町大東、恩田哲男さん方
卵が産み付けられたミズゴケ=雲南市大東町大東、恩田哲男さん方
ゲンジボタルの養殖を手掛ける恩田哲男さん。手に持つ透明な飼育箱は産卵用。下の青いケースは、ミズゴケに産み付けられた卵からかえった幼虫が、水中に落ちる仕組みになっている。長年の試行錯誤の末に生まれた独自の設備だ
 ホタルや星座に目を凝らしたのは何年ぶりだろう-。ふと夜空を仰いでそう思ったのは、身近に生息する小さな生命が放つ光の世界に、思わず見とれてしまったからだ。

 雲南市大東町は、幻想的に飛び交うゲンジボタルの名所。今年の初夏も光の劇場の主役「赤川ほたる」が、市内外から多くの観賞者を引き寄せた。しかし、その生息環境が、住民の地道な保護活動によって支えられていることを知る人は少ない。

 乱舞が終わった6月下旬からの1カ月間は、ホタルの産卵やふ化の時季にあたる。7月中旬、町中心部の赤川近くに住む赤川ほたる保存会会長、恩田哲男さん(76)を訪ねた。車庫の片隅に、放流用の幼虫を育てる水槽や飼育箱などが並ぶ。

 かつて観賞専用列車も運行された赤川ほたるだが、1955(昭和30)年ごろから河川の水質汚濁が進んで数が減少。恩田さんは78年から養殖に取り組み、毎年5万~6万匹の幼虫を小学生らと町内の川に放流している。

 飼育箱の上に載ったミズゴケに、雌が産んだ0・5ミリほどの卵がびっしりと付き、下の水中ではふ化した2ミリほどの幼虫の大群がモソモソと動く。午後8時。室内の明かりを消すと、暗闇にぼんやり白い塊が浮かび上がった。

 「今日も元気のようです」と恩田さん。やがて目が慣れ、数千個の卵が星雲のような輝きを放っているのが分かる。やや大きい幼虫の光は数秒おきに明滅する。カメラを三脚に固定し、シャッターを長時間開くと、5センチ四方のモニター画面に無数の光点…思わず「小宇宙ですね」と声が出た。

 さて、小さな生命が放つ輝きと実際の星空は、どちらがきれいか。屋外に出て見ると、頭上の星よりホタルの方がずっと宇宙的。「勝った」と思った。

 (文と写真 本社報道部・森山郷雄)

 赤川ほたる 島根県東部を流れる斐伊川支流の赤川に生息するゲンジボタル。寿命は1年。初夏の夜、川面で発光するのは産卵期を前にした雄と雌の「求愛のシグナル」とされる。高度経済成長期の水質悪化で生息数が減少したが、1983年に赤川ほたる保存会が発足し保護活動を本格化。ほたる保護条例や水流を緩和する「ほたる工法」による河川改修が実り、近年、小河内地区の赤川上流や大東地区の阿用川下流など大東町内各所で観賞スポットが復活しつつある。

2010年7月26日 無断転載禁止