レッツ連歌(下房桃菴)・1月12日付

(挿絵・岡本健一)
2012年新春特集


 あけましておめでとうございます。

 今年は、和銅五(七一二)年に古事記が編纂(へんさん)されてから千三百年の節目。「神話博しまね」をはじめとして、各地でさまざまなイベントが予定されております。

 レッツもそれに便乗して、新春特集は神話伝説にちなんだ古川柳のご紹介から始めることにしましょう。

 まずは、

  岩戸までその日戸隠(とがくし)闇で行き

 アマテラス大神(おおみかみ)が、天(あま)の岩戸に閉じこもって世界が真っ暗になったお話は、どなたもご存じのとおりです。そのとき、アマノウズメが踊りを踊って、岩戸の扉がほんの少し開いたところを、腕自慢のタヂカラオが力まかせに扉を開けたので、世界は再び明るくなった、というわけですね。

 古事記には書かれていないのですが、開けた扉は信濃の国まで投げ飛ばした、と伝えられていて、ですから、「戸隠」というのはダヂカラオのあだ名のようなものと思ってください。ちなみに、長野県には戸隠神社というのがあって、この神様が祀(まつ)られております。

  かくれんぼ見つけ出したは信濃者

 「かくれんぼ」という表現がおもしろいですね。なお、「信濃者」は、川柳では典型的な田舎者ということになっております。(長野県のかた、ごめんなさい。)

 次は、島根に縁深いエビス・ダイコク。

  エビスさま初手(しょて)一枚は落っことし

 「エビスさま」といえば、言わずと知れた鯛(たい)釣りの名手。が、ウオーミングアップするまでは、さすが釣り逃すこともあろう、という見立て。

 で、二枚目あたりからは調子が出てくる。

  縁談の儀なら御免と鯛を釣り

 縁結びといえば、なんといっても、ダイコクさまことオオクニヌシの命(みこと)。

 が、そのオオクニヌシも、サジを投げたという娘が、実は一人おりまして、絶世の美女でありながら、どうやら男嫌いという噂(うわさ)。

  おのおのいかに小町はと大社(おおやしろ)

 なお、小町にはこんな句もある―。

  弁慶と小町は馬鹿だなあ嬶ァ

 が、これはオマケ。新春に免じてお許しください。

 出雲神話の圧巻は、なんといってもスサノオのオロチ退治。

  神代にもだます工面は酒が要り

 酒で不覚を取った例は、古今東西、枚挙に遑(いとま)ありません。みなさん、心してください。

  どっちらも好きでオロチはしてやられ

 これは、なお悪い。男性のみなさん、くれぐれもお慎みのほど。

 さて、酔いが回ると、

  オロチ酩酊(めいてい)十六の目がすわり

 頭が八つもあるのだから、物が二重、三重どころじゃない、十六重か二十四重に見える。

 頭が多すぎることの難点は、まだ他にもあって、

  鎌首を上げるとオロチつんのめり

 バランスの問題ですね、これは。それが命取りになったという説もありますが、真偽のほどは存じません。

 川柳子というものは、さらに不思議なことを考えるもので、

  もしか蛇(じゃ)が下戸だと命餅に搗き

 オロチが餅を食いすぎて、動けなくなったところを見計らってジワリジワリと絞め殺す…、これじゃ神楽にもなりませんね。

 最後は、お正月らしく、三百六十歳の天寿を全うした武内宿禰(たけのうちのすくね)。垂仁から仁徳までの六代の天皇に仕えたといわれております。

  武内は年取り豆を俵(ひょう)で買い

 いくらなんでも「俵」は言い過ぎでしょうが、ま、おもしろいからよしとしましょう。

  御先々代はかようと武の内

 みんなの先祖のことを、なんでもよく知っていて教えてくれる。こうなると長寿よりも記憶力のほうに驚かされますね。

 で、とかくするうち、

  泣く者がなくなって死ぬ武の内

となるわけで、これは寂しいような気もするけれど、なにしろ三百六十歳ですから、やはり、めでたい。

 めでたい、めでたい!

 というところで、みなさんの作品です。

   (以上、表記は読みやすく変えてあります)

           ◇

 古事記編纂(へんさん)千三百年

千木高く恵比須大黒鎮座して  (大田)丸山 葛童

居ずまいを正し日記のページ繰り (松江)高木 酔子

むずかしい前句出されて四苦八苦(松江)本田  章

民草はいつも歴史の闇の中   (雲南)難波紀久子

おごそかにだいこくさまの歌流れ  (雲南)板垣スエ子

スサノオのなり手が多い里神楽  (松江)岩田 正之

出ずる日と入る日で結ぶ伊勢出雲(大田)沢江 洋子

次世代へ国の誉れと語り継ぐ   (松江)森  笑子

伝説と思った人の墓誌が出て   (美郷)源  瞳子

書棚から引っぱり出して読み返し (松江)持田 高行

キモカワイイ今じゃアイドル大蛇くん

                    (松江)原  野苺

イザナミの声か葉音か伊賦夜坂  (益田)石川アキオ

女子会でおいで神話のふるさとへ (松江)川津  蛙

学校で習わぬ神話知る神楽   (益田)可部 章二

入試にはきっと出るぞと肩たたき  (松江)福田 町子

入試では何時代かも問われるよ (松江)相見 哲雄

パソコンをタイムマシンで届けたい

                    (益田)黒田ひかり

国引きの杭を残して神は去り   (出雲)行長 好友

原本じゃないかと騒ぐ鑑定団   (松江)村田 行彦

自分史を書いてもたかが三ページ(飯南)塩田美代子

神々は長き眠りを覚まされて   (出雲)遠藤  伸

今の世もヤマタノオロチ跋扈して (江津)星野 礼佑

神様が次々と産む大八洲    (松江)木村 敏子

安万侶は阿礼の頭を覗き込み  (益田)石田 三章

二人とも昨日のこともすぐ忘れ  (松江)多胡 誠夫

ばあちゃんはセーター編んで百一歳

                   (雲南)佐藤 風子

かあちゃんもオロチ退治はお手のもの

                   (大田)加藤 妙鳳

やれやっと見つかりましたアルバイト

                    (出雲)矢田カズエ

肥ノ川を鎮める三つのプロジェクト

                   (松江)木村 更生

今年こそこの手で増やす観光客 (松江)山崎まるむ

先人も癒された湯に骨休め    (江津)江藤  清

宍道湖の雲に古代へ夢を馳せ  (松江)田中 堂太

カラオケの歌詞さえ覚えられぬのに

                   (出雲)原  陽子

銅剣の光輝く出雲の地     (雲南)内部 包穂

新春はマンガを読んで神話通  (浜田)宇田山 博

幸せのバブルリングもタイアップ  (浜田)大井 一弥

この国の平和続けと祈る春   (松江)花井 寛子

神々の集う社は輝いて     (松江)野津 重夫

今年から私の日記捨てません  (美郷)芦矢 修司

昔から出雲文化は箸で食い   (松江)中西 隆三

今年こそ島根に来るにゃ待ってるにゃ

                   (江津)岡本美津子

むずかしい漢字たくさん使い分け (松江)村田 欣子

辰歳はスサノオマジック優勝し  (松江)渡部 靖子

それくらいまだ洟垂れとスフィンクス

                    (松江)森広 典子

ここいらでワシも自叙伝作ろうか  (益田)時 任三郎

慶応の先はたどれぬわが家系   (松江)余村  正

あおによし奈良の都にせんとくん  (松江)庄司  豊

雲州に神集います神無月    (美郷)吉田 重美

神様のお名前やたら長いのね  (益田)吉川 洋子

出雲の地パワースポットだらけです

                   (出雲)真幸 信子

満席の出雲神話の講演会    (益田)竹内 良子

垂れ幕がひときわ目立つ観光課 (浜田)勝田  艶

来年はレッツ連歌の二十年    (松江)松田とらを

           ◇

 「キモカワ」は若者のはやり言葉のようですが、これはうまくできているなと思います。境港の妖怪なんか、まさにその典型でしょうし、そういえば、恐ろしいはずのオロチも、神楽なんかで見ると、ちょっとかわいく見えなくもない。

 とはいえ、「今の世のヤマタノオロチ」といえば? 去年の東北の大震災や原発事故がそうなんでしょうか。いやいや、被災者をよそに、いまだに政争を繰り返しているだけの政治家のことかもしれません。そのことを思えば、かあちゃんの退治するオロチなんて、やっぱりかわいいものです。

 明るい話題も、去年ありました。

 正造じいちゃんの絵日記が大評判になりましたし、筑豊の炭鉱を描いた山本作兵衛さんの絵は、世界記憶遺産に登録されました。で、今年あたり、修司さんの日記が…?

 そうして、来年は「レッツ博しまね」ですか。

           ◇

 さて、急いで次の前句です。

  目が覚めてから床を出るまで

 寒い朝はなかなか床を出られませんよね。その間、なにをし、なにを考えるのか。この句に楽しい五七五を付けてください。

           ◇

 言い忘れるところでした。

 始めにご紹介した句の中に、実は一句だけ、古川柳でもなんでもない、桃菴センセのイタズラが仕込んであります。それはどの句か、すぐにはお分かりにならないでしょう。が、これぞと思う句を一つ、今度ご投句いただくおはがきの端にでも、ちょっと書き添えていただけませんか。

 もちろん、正解されたからといって、なにも差し上げません。第一、正解は出ないのではなかろうか、などと桃菴センセ、ニヤニヤ楽しみにしていらっしゃいます。

          (島根大名誉教授)

2012年1月13日 無断転載禁止

こども新聞