島根ふるさと遺産100選 (2)春の景色

島根県内には、四季を通じて楽しめる景観が今なお残っている。中でも この季節、日本人の心に訴えるのが桜だ。リスト入りした出雲と石見を代表す る名所を紹介するとともに、特有の地形をなす大根島、それを眼下に望む枕木 山を歩いた。

ボタンの島として知られる大根島。江島大橋を望むなど 、周囲の景色は時代とともに変化している
大根島の風景(松江市)

 中海にぽっかり浮かぶ大根島(松江市八束町)は、約19万年前、噴火によ って形成された火山島。太古の昔から変わらない島特有の地形と、時代ととも に変化する周囲の景色が、実に趣き深い情景を映し出す。出雲国風土記に登場 する「■(虫ヘンに居)■(虫ヘンに者)(たこ)島」が「大根島」になった とされる。

 ボタンの島としても知られ、約300種を栽培、年間約150万本が生産さ れる国内で最大の産地。約300年前に生産が始まり1953(昭和28)年 に、「島根県の花」に選ばれた。ゴールデンウイークごろには、島錦、花王、 天衣などの見事な花が色鮮やかに咲き誇り、訪れた観光客や愛好家を魅了する 。

 また、県内唯一の特産・雲州人参の産地でもある。天保年間(1830~4 4)に松江藩の事業として始まり、現在約20ヘクタールで栽培している。高 麗人参に並ぶ最上級品として海外の市場でも評価が高い。

 八束町は観光、産業、歴史に育まれた島だ。

花見客を魅了し続ける木次土手の桜
木次土手の桜(雲南市)

 斐伊川の清流に沿って、雲南市木次町で約2キロにわたって淡いピンク色の トンネルをつくる桜並木。手入れの行き届いたソメイヨシノなど約800本が 春の土手を彩り、1990年に日本さくら名所100選に選ばれた。

 木次土手の桜並木は1920年ごろに植樹を始め、昭和天皇の即位を祝う記 念事業として本格的に拡大。太平洋戦争時に当時の旧木次町長が軍部の供給命 令に応じず、伐採から守った経緯もある。

 6~7割の桜は樹齢80~90年を迎える古木で、大きいもので高さ15メ ートル。ボリュームある花が特徴で、花見客を魅了する。

 保全活動は地域全体で行われており、69年に住民らが「健康の町木次さく らの会」(現・雲南市さくらの会)を結成し、90年に旧木次町が専門職員「 さくら守(もり)」を配置した。剪定(せんてい)や草刈り、薬剤散布など一 年中手入れをする3代目さくら守の遠田博さん(65)は「この景色を永久に 維持しなければいけない」と満開の桜に誓う。

見事な枝張りで魅了する三隅の大平桜
三隅の大平桜(浜田市)

 浜田市三隅町矢原にある国指定天然記念物、大平桜は全国でも有数の桜の巨 木。枝張りの雄大さから満開時の姿は雪の積もる小山を彷彿(ほうふつ)とさ せる。

 推定樹齢は660年で樹高約17メートル。所有者の大平富太郎さん(83 )=同町矢原=の先祖が、馬をつなぐために植えたと言い伝えられている。

 エドヒガンザクラと山桜が自然交雑し、若葉は帯黄色のエドヒガン、枝葉の 形状は山桜と両方の特徴を併せ持つ貴重な品種で、毎年春には周辺で桜祭りが 催され、県内外から多くの観光客が訪れる。

 1935年の天然記念物指定時に11本あった枝は、火災や台風の被害を数 度にわたって受け、現在は4本が残る。92年と2000年には国庫補助を受 け、市が大規模な治療と保護対策を施した。

 代々桜の隣に住み、草抜きなど周辺を手入れしている大平さんは「生まれた 時から桜を見続けてきたので、もう生活の一部になっている。これからも毎年 、きれいな花を咲かせ続けてほしい」と話す。

枕木山からの眺望。一大パノラマが広がる
枕木山からの眺望(松江市)

 島根半島を縦断する北山山系の最高峰・枕木山。山頂付近に建つテレビ塔の 東側からの眺望は素晴らしく、出雲富士とも呼ばれる大山や、眼下に広がる中 海などの一大パノラマが訪れた人たちの目を楽しませる。

 枕木山は標高456メートル。出雲国風土記には大倉山として登場する。快 晴の日は秀峰大山が目の前に迫って来る。手前に広がる中海には大根島がくっ きりと浮かぶ。早朝には御来光も拝め、差し込む光が、風土記の世界を彷彿と させる。島根大の前身、旧制松江高校のドイツ語教師フリッツ・カルシュ(1 893~1971年)は、幾度か山頂を訪れ中海をはさんだ大山や、江島と大 根島などの風景を、パステル画に描いた。素朴で親しみやすい作風は見る人に 安らぎを与えた。

 山頂付近からの眺望は、昔から松江では母親らが夢見心地の眺めを例えて「 枕木山に登るよ」といって子どもを寝かしつけたという。それほどここからの 景色は魅力的だった。

2013年4月23日 無断転載禁止