悠久のくに(4) 医薬王国・出雲

カワラナデシコ(薬効・利尿)
ワレモコウ(薬効・止血)
トリカブト(薬効・鎮痛)
サネカズラ(薬効・鎮咳)
キキョウ(薬効・鎮咳、消炎)
ウド(薬効・敗毒)
オキナグサ(薬効・強心)
 良質な薬草に恵まれる

 日本最古の歴史物語・古事記全3巻のうち神代の巻において、出雲神話は実に3分の1を占めている。出雲が神話の舞台として格別の地とされたのはなぜか。古事記編さん1300年の節目を迎えた昨年から、その背景についてさまざまな議論が展開されている。

 その中で、医師で島根大学の小林祥泰学長(66)は古代出雲の力の源に「医薬王国」の存在を読み解く。古事記の神話では、オオクニヌシの前身であるオオアナムヂが兄弟神に恨まれ、焼けた大岩を抱え殺されてしまう。その際に登場するのがキサガイヒメとウムガイヒメ。赤貝の殻の粉をハマグリの汁で練り、やけどした皮膚に塗ってよみがえらせた。

 赤貝とハマグリには傷を覆う効果を持つキチンや、炎症を抑えるタウリンなどを多く含み、小林学長は「現代のやけど治療に通じる」と分析。古代出雲に医薬に通じた人物の存在を考え、薬の材料となる赤貝やハマグリが容易に入手できた豊かな自然に注目する。

 「医薬王国」は奈良時代に編さんされ、全国で唯一完本として残る地誌・出雲国風土記からもうかがえる。風土記には出雲に自生していた草木112種が記され、うち薬草が61種類と半分以上を占める。平安時代の延喜式にも出雲から朝廷に納められた薬草は53種と記載。国別で全国3位で、出雲に良質な薬草があったことを物語る。

 今も出雲国風土記に記された薬草を見ることができる場所が島根県立八雲立つ風土記の丘(松江市大庭町)。敷地内の植物園には、風土記に登場する薬草が栽培され、春先から順次、花を付ける。

 植物園担当の岸本功さん(64)は「花が小さく雑草のよう」と目を細める。見た目では華やかさに欠けるが、薬効から貴重な資源として大切にされてきた。岸本さんは「種がなくならないよう、冷蔵庫で保存している。次世代に伝えたい」と意欲を燃やす。

 松江市八雲台2丁目の木須井幹夫さん(73)も風土記の薬草に強い関心を抱く。島根県高齢者大学校・くにびき学園のメンバーとして昨年から植物園に通い「すべての薬草を写真に収め、地域を知るきっかけにしてもらえれば」と望む。

 もう一つ、興味深いのが「於宇(おう)」。奈良時代の松江の中心を成した「意宇(おう)」郡と同じ発音をするこの言葉の正体はトリカブト。平安時代、日本最初の漢和薬名辞書「和名本草」にトリカブトの和名として登場する。

 根が猛毒のトリカブトは、漢方で重要な薬草。中国では紀元前から加熱して減毒し、鎮痛薬などに利用されたとされる。減毒は古代の先端技術とされ、小林学長は「薬草に恵まれた出雲に意宇があることは、於宇の存在をも示す。平安時代に出雲は医薬レベルで日本一だったのではないか」と説く。

 古事記の有名な稲羽(いなば)の素兎(しろうさぎ)神話で、オオアナムヂは蒲(がま)を用いることで傷ついた兎を救った。古来、医薬の知識は国を治める王に欠かせない要素だったに違いない。

 (文・写真部 杉原一成)

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 写真はいずれも八雲立つ風土記の丘植物園の薬草で、木須井幹夫さんが撮影、提供。

2013年5月20日 無断転載禁止