島根ふるさと遺産100選 (6)石見の名勝、伝説

石見が誇る遺産の数々。今回は名勝や歌聖伝説、貴重種を紹介する。

高角山公園に設置されている柿本人麻呂の銅像
万葉歌人・人麻呂の足跡(石見地域)

 万葉歌人・柿本人麻呂は約1300年前、石見国に国司として赴任し、江津市二宮町が生誕地とされる依羅娘子(よさみのおとめ)を妻に迎えた。人麻呂が都に帰る際、2人が別れを惜しんで詠んだ石見相聞歌(そうもんか)は激情と物寂しさが交錯する愛の歌で、万葉集の中でも秀歌として知られる。

 石見相聞歌には「高角山」「辛の崎」など、同市周辺とされる地名が複数登場。市内5カ所に歌碑が建立され、高角山公園(江津市島の星町)には人麻呂と依羅娘子の銅像があり、市民の間で万葉ロマンが語り継がれている。

 同市は2012年、人麻呂と依羅娘子が愛を育んだ場所として島根県内唯一の「恋人の聖地」の認定を受け、観光資源として生かす取り組みも進む。

 また、益田市や浜田市、島根県美郷町は「人麻呂終焉(しゅうえん)の地」との説がある。人麻呂を祭った神社は石見各地に点在し、万葉の歌聖は地域で「人麻呂さん」と呼ばれ親しまれている。


自然が織りなす芸術品、石見畳ケ浦
石見畳ケ浦(浜田市)

 国指定天然記念物で、浜田八景の一つでもある「石見畳ケ浦」。日本海を眺望できる美しい景観に加え、約1600万年前に堆積した地層や化石など天然の学術資料が残っている。

 畳ケ浦の別名は「床の浦」。波食によってできた広大な床のような「海床」は約4万9千平方メートルにもわたる。縦横に走る亀裂によって畳を敷き詰めたようにも見えることから「千畳敷」とも呼ばれる。

 海床には腰掛けのような丸い石のノジュール(団塊)をはじめ、貝や大型有孔虫、クジラの骨などの多様な化石が点在。化石の中にはハート形に見える貝もあり、3個見つけると幸せになれると言われている。

 ほかにも、地震による隆起で形成された断層や海食崖などがあり、貴重な自然遺産だ。市内の小学生らを対象に、現地で歴史や特徴を説明している石見畳ケ浦研究会の桑田龍三会長(75)=浜田市黒川町=は「ふるさとに価値あるものが存在することを子どもたちに伝えていきたい」と話す。


イズモコバイモが咲き誇る島根県川本町谷戸の群生地
イズモコバイモ群生地(川本町)

 うつむくように咲くかれんな姿から「春の妖精」とも呼ばれるユリ科の希少植物・イズモコバイモ。島根県川本町谷戸の群生地では、春の訪れとともに2500~3千株が咲き誇る。

 環境省のレッドデータブックで絶滅危惧種に指定されている県固有種。群生地は町中心部から北西に約3キロ離れた県道沿いの山の斜面約900平方メートル。3月初旬ごろから釣り鐘状の2~3センチの花を咲かせ始め、一面を白く彩る。

 約1カ月間の開花時期には県内外から多くのファンが訪れ、今年は約2千人が来訪。県立三瓶自然館サヒメル(大田市)の学芸員らによる学習観察会で、愛らしい花の魅力に触れることができる。

 町観光協会によると、これだけの株数を誇る群生地は他にないという。それだけに、地元の保護団体「みんなで守る谷戸の自然」(大畑勉代表)と「川本町自然大好きネットワーク」(堀川俊雄代表)が、年間を通して草刈りなどをして管理。地域の宝を大切に保護している。


仁摩サンドミュージアムで展示している1年計砂時計
琴ケ浜と砂時計(大田市)

 大田市仁摩町馬路地区にある「琴ケ浜海岸」は、砂浜を歩くとキュッキュと音のする「鳴り砂」で知られる。

 この地に伝わるのが琴姫伝説。平家の姫が源平合戦で敗れて漂着し、村人に助けられた。お礼に姫は毎日琴を奏でていたが、姫が亡くなると砂浜が琴の音のように鳴るようになったという。

 伝説に彩られた約2キロにわたる弓なりの美しい景観が続く砂浜は「日本の渚百選」や「日本の音風景百選」に選ばれており、県内外から訪れる多くの観光客を引きつけ、住民らに親しまれ続けている。

 その琴ケ浜の鳴り砂をテーマに、自然保護のシンボルにしようとの発想で建てられたのが1991年にオープンした砂の博物館「仁摩サンドミュージアム」(大田市仁摩町)。

 ピラミッド型の建物の中で、目を引くのが世界最大級の砂時計で、直径1メートル、高さ5・2メートルの大きさ。1トンの砂が365日かかって落下する。巨大な展示物は見る者を圧倒し、魅了する。


2013年6月11日 無断転載禁止