島大生と出雲・伊野地区の連携 子どもたちに自然遊びを

 島根大学教育学部の学生が出雲市伊野地区で地域住民と連携しながら、豊かな自然を舞台に子どもと遊ぶ活動に取り組んでいる。自然の中で遊び、ふるさとに愛着と誇りを持ってもらおうという活動を伊野べーション(伊野×innovation)と名付けた。昨年から地域に溶け込む努力を重ね、今年から本格的な活動を始めた。


8月に行った泥んこフェスティバル。大自然の中、子どもたちの歓声がはじけた
笑顔炸裂\(^o^)/ ゼロからつくる伊野べーション

 今の子どもたちは自然の中で本気で遊ぶ体験をしているだろうか? 子どもたちと大学生が一緒に自然の中で遊ぶことを通して子どもの成長を促そうと考えたのは、島根大学教育学部の山形祐貴(2回生)、青木紳次(3回生)、日下真夕子(2回生)の3人。私たちの構想を同大学の作野宏和教授に相談したところ、出雲市伊野地区自治協会長の多久和祥司さん(61)を紹介された。

 その後、伊野地区の支援を得るため、伊野地区自治協会や伊野コミュニティセンターの活動に参加するなどして、地域の皆さんとの交流を深めつつ構想を温めてきた。

 本年度は、森の中の秘密基地づくり、休耕田を利用しての泥んこ遊び、ハロウィーン衣装での島根大学大学祭参加などを企画した。

 伊野べーションが狙っていることが三つある。一つ目は、伊野の自然を舞台に遊ぶことを通して、子どもたちの問題解決能力や創造性、ふるさとへの愛着心を楽しく育てること。二つ目は、伊野地区の活性化を図ること。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などを活用して積極的な発信に努め、大勢の人を地域に呼び込むこと。三つ目は、地域の人々と連携した活動を通して、大学生の学びに新しい可能性を見つけ出すことである。


放課後の生活 メディアとの接触時間増

 伊野地区の小学生は61人、中学生は47人。その多くはバスで登下校をしている。かつて川や山で道草をしながら帰路をたどった懐かしい日常は、今の子どもたちには非日常になっている。今年3月に伊野ベーションが伊野地区の小中学生を対象に行った調査によれば、1週間のうち外で遊ぶ日数は平均2・8日しかない。

 集団遊びが減少し、ゲームやメディアとの接触時間が著しく増加している。伊野べーションは自然遊びを通して、子どもたちに三つの「間」(時間、空間、仲間)を届けることを目的としている。自由な遊びの時間、山や田んぼなどの遊び空間、一緒に遊ぶ仲間づくりを演出しようと試みている。


舞台はココ!出雲・伊野地区

 伊野地区は出雲市の東端に位置し、北は日本海、南は宍道湖に面した1390人余りが暮らす中山間地である。陽春の昼下がり、十膳山から穏やかにきらめく宍道湖を眺め、峠を越えると潮騒を奏でる日本海が開けた。

 少子高齢化や過疎化に歯止めがかからない現状を打開しようと地域を挙げた取り組みが始まっている。伊野の人々は私たちを温かく迎えてくださり、何度も通いたくなる居心地の良い地域だと感じた。



学生と伊野地区住民との親睦・交流を深めようと開かれた懇親会
広がる学生と地域の輪

 伊野べーションの中心メンバー3人が、初めて伊野地区に足を踏み入れたのは昨年11月。地域を散策しながら、「この森でキャンプを張ってカブトムシ捕り大会ができる」「泥田バレーをした後、日本海で泥を落とそう」などと熱く語り合った。「伊野べーション」という名前が生まれたのはその日の帰途の車中だった。

 その後、私たちは仲間を7人に増やして構想を練るとともに、伊野コミュニティセンターの大掃除や自治協会の会議に参加したり、高校入試対策の勉強会で講師を務めるなど、顔と顔でつながる関係を作り上げてきた。3月には、伊野べーション交流会を開催して住民40人余と親睦を深めた。

 具体的な構想を固めつつ、賛同する仲間を増やすことにも努めた。これまでの参加学生は40人を超えた。



のびのび空間満喫

秘密基地をつくり、ターザン遊びに興じる子どもたち
森の中で秘密基地

 6月16日(日)、伊野地区の山林で子どもたちと学生・保護者ら70人余りが秘密基地づくりを楽しんだ。3月、どんな遊びをしたいかと小中学生にアンケートを行ったところ、最も人気の高かった活動である。

 当日は、山から竹を切り出して3階建ての秘密基地をつくったり、ブランコや滑り台を作るなどして森の生活を満喫した。


泥まみれで走る・跳ぶ・叫ぶ

 8月17日(土)、休耕田を利用して泥んこフェスティバルを開催し、小中高校生と大学生ら70人余が相撲やリレーなどの競技を楽しんだ。

 子どもたちが泥んこの田んぼで遊ぶ機会はまずない。あったとしても、危ない・汚いなどの理由からブレーキがかかる。そんな子どもたちにノー・ブレーキの空間を提供し、体を動かす喜びを思い切り体感してもらうことを狙った。



地元の声

2人娘とワクワク 保護者 松本靖吾

 「お父さん、島根大学の学生さんと秘密基地づくりがあるので行ってみたい」と、2人の愛娘は目を輝かせながら言ってきました。どんなことをするんだろう、とワクワクしながら出かけました。

 木のつるにぶら下がり、ターザンごっこをして大声を出したり、木登りやブランコを楽しみました。ふだん使ったことのないのこぎりやなたを使い悪戦苦闘しながら竹を切り出し、3階建ての家を作りました。竹の骨組みだけで作ったものでしたが、子どもたちには本物の秘密基地に思えたことでしょう。

 自然豊かな伊野地区で子どもたちが戸外で遊ぶ楽しさ、自然の素晴らしさを肌で感じた体験でした。


古里好きになって 伊野コミュニティセンター長 松本剛美

 ゲーム機の登場に伴い、野外で遊ぶ子どもたちが激減した。伊野は宍道湖から日本海までつながる自然の変化に富んだ地域。この中で子どもたちが自由に遊び、伊野を好きでいてほしい、というのが地域住民の願いです。

 伊野べーションは子どもたちに外遊びの楽しさを味わってもらうことに併せ、大学生と地域住民との交流が大きな魅力となっています。参加した子どもたちはもちろん、地元スタッフも喜びを隠せません。


学生の成長に期待 伊野サッカークラブ指導者 池尻 義

 大学生との交流は、地域にとってかなりのプラスになっていると思う。子どもたちの笑い声が聞こえたら大人も笑顔になり、笑顔いっぱいの地域になっていくと思うからだ。

 事前準備のリハーサルでは、大学生がなたなどの使い方を分かっていなかったが、当日は子どもたちに指導できるまでに上達していてビックリした。

 インスピレーションは豊かだが、ケガなどの対応をもっと考えることで社会人としての力を付けてほしい。


泥んこフェスティバルを終え、汚れを流し落としてもらう児童
子どもの声

「祖父もやっていた」 伊野小5年 門脇野乃歌

 私のおじいちゃんが「子どものころ、基地をつくって遊んでとても楽しかった」と言っていたので、基地づくりを楽しみにしていました。

 でも、やってみると簡単ではありませんでした。特に難しかったのは、竹をつなげるのにひもしかなく、くぎなどを使わなかったことです。最後に、壁を作ればもう家の中のような、なんと3階建ての基地ができて、とてもうれしかったです。それに、ブランコなど遊具も作れたので楽しかったです。


公園に集まり、伊野ベーションの企画、プランを話し合う学生たち
大学生の声

大胆な企画生み出す 2回生 島田笑合

 これまでにない大胆なことを企画するということで、話し合いの場も普通とは違います。教室だけではなく、大学のベンチや公園など開放的な場所、言いたいことが言える空間で話し合いをし、より良い企画ができるように意見を出し合っています。

 また、メンバーを固定していないので、いつでも新しいメンバーが入ることができ、ユーモアのある企画ができるのも伊野べーションならではと思います。


新たなもの求める 1回生 町川大弥

 伊野べーションのすごいところは、企画から振り返りまで、全てにおいて新たなものを求め、型にとらわれることなく、「なんだあ、あれは? すごいぞー!」と思ってもらえるような、ぶっ飛んだ楽しい活動を作り上げようと、常に高みを目指し続けることです。


自然相手にジレンマ 伊野ベーション代表 山形祐貴

 伊野地区の人々と話をすり合わせていく中で、必ず挙がる課題が「安全管理」。私たちとしては、幼いころの原体験から、泥んこになってほしい、転んでもほしい、擦り傷や切り傷の一つや二つ、あってもいいと思っている。

 しかし、企画を行う以上、責任が伴ってくる。自分たちの思いだけではやっていけない現実がある。保護者の不安を取り除かなければ、伊野ベーションを持続することはできない。

 安全管理という意味合いも含めて、本番前には丹念にリハーサルを行ってきた。初めてのフィールド、整えられていないむき出しの自然が相手。危険がどこに潜んでいるか分からない。休耕田の底にたまった石で足を切った学生もいた。

 リスクをつぶしていくのがリハーサルの意味であり、企画を成功させるためには欠かせないが、「成功とは何だろう?」とも考えさせられる。地域の期待に応えることができたかもしれない。しかし、リスクが減り、整えられた自然にはどこか人工的な雰囲気が漂うことは否めない。

 安全管理に関してはこれからも悩み続ける課題となるだろう。この点について議論を展開していくことが、伊野ベーションの成長には欠かせないだろう。



伊野ベーションのフェイスブック
活動の様子はFBで

 「伊野ベーション」では、活動を多くの人に発信するため、SNSを利用している。会員制交流サイト・フェイスブック(FB)の伊野ベーションページでは、活動の写真やイベントの告知などを行っており、伊野ベーションの様子を見ることができる。「いいね!」ボタンをクリックすれば、伊野ベーションの記事をチェックすることも可能だ。このように、伊野ベーションでは、伊野だけにとどまらず、より多くの人に発信していこうという取り組みがあるのも特徴の一つだ。

2013年9月26日 無断転載禁止

こども新聞