島根ふるさと遺産100選 (13)出雲国風土記ゆかりの地と文化

今回のキーワードは出雲国風土記。奈良時代に完成し全国で唯一完本として伝わる風土記に記された場所や文化を紹介する。

大馬木川の急流が造りあげた「鬼の舌震」の中流部
鬼の舌震(奥出雲町)

 鬼の舌震は、奥出雲町を流れる斐伊川の支流・大馬木川の急流がつくり出したV字渓谷で、国の名勝・天然記念物に指定されている。上流から下流にかけての延長2キロに浸食でできたさまざまな奇岩、巨岩がある。

 上流部には刀で真っ二つに割ったような「試刀岩」、中流部には大岩の上に立つ水がめに似た「はんど岩」、高さ80メートルの絶壁「大天狗(おおてんぐ)岩」に「大山椒魚(おおさんしょううお)岩」など、下流部には姫の湯殿とも呼ばれる「雨壺」や角張った「烏帽子岩」などだ。

 「鬼の舌震」の名の由来は、出雲風土記にある慕山(したいやま)に住む玉日女命という美しい女神を恋い慕った和爾(わに=サメ)が斐伊川を上って通ったという記述による。「和爾が慕う」が転じたとする説と「和爾が恐れて舌を震わせた」という説がある。

 同所は、年間入り込み客が10万人を超える観光スポット。春の若葉、夏の涼、秋は紅葉見物と、季節を通し多くの人が訪れる。2013年夏、最下流部に新たに全長160メートルのつり橋が完成。全長2キロの遊歩道も完全バリアフリー化され、通行が楽になった。

ライトに浮かび上がる玉造温泉街
玉造温泉(松江市)

 玉湯川の両岸に、和風旅館が軒を連ねる玉造温泉(松江市玉湯町)。奈良時代の733年に編さんされた出雲国風土記にも老若男女を問わず入浴を楽しみ、人々がにぎやかな酒宴を開いていた様子が描かれており、日本三古湯の一つに数えられる。

 玉造の名の由来は、温泉街の東側にある花仙山で、良質の碧玉(青メノウ)が産出し、古墳時代に勾玉(まがたま)や管玉など玉の一大生産地だったことによる。

 出雲国風土記はとりわけ温泉をくわしく描き「この里の川辺には湯が湧いている。この湯で一度洗えば容貌も美しくなり、重ねて入浴すると万病が治る。だから人々は神の湯と呼ぶ」と特記している。

 玉造は江戸時代、松江藩主の静養地にもなっており、湯之介と呼ばれ温泉を管理する役職も設けられていた。

 無色透明の湯は、美肌と疲労回復に効果がある。温泉街の近くには「願い石」「叶(かな)い石」で知られ、パワースポットとなった玉作湯神社や、美肌祈願の「おしろい地蔵」などもあり、平日でも女性客の姿が目立つ。

冬の操業期を迎えて日刀保たたらで行われた火入れ式
たたらと鉄文化(雲南、出雲市、奥出雲町)

 たたら製鉄とは、日本刀の材料になる玉鋼を含んだ■(金ヘンに母)(けら)や、鋳物の材料になる銑(ずく)を生産するため日本で伝統的に行われてきた製鉄法。粘土製の炉内で木炭を燃やして砂鉄を溶かし3、4昼夜かけて鉄をつくる。

 日本の鉄文化は弥生時代に朝鮮半島から伝わり、古墳時代後期(6世紀後半)に鉄の生産が始まった。出雲地方では出雲国風土記に、奥出雲地域で良質な鉄が生産され、鉄の道具を作るのに優れていると記された。

 江戸時代、たたら製鉄は松江藩の保護政策の下で最盛期を迎えた。仁多郡の桜井家と絲原家、卜蔵家、飯石郡の田部家、神門郡の田儀桜井家など有力な鉄山経営者が操業した。明治時代に入ると安価な洋鉄に押され、たたら製鉄は斜陽産業になり、1925(大正14)年に途絶えた。

 しかし、昭和に入り軍刀生産のため復活。敗戦で再び廃止されたが、77年に日本美術刀剣保存協会(東京都)が刀の材料生産と技術保存のため、奥出雲町大呂の日刀保たたらで復活させた。村下(技師長)の木原明さん(77)らが、伝統技術を守り続けている。

「佐香」と「松尾」の二つの神社名が刻まれた佐香神社の鳥居
佐香神社(出雲市)

 酒造りの神「久斯之神(くすのかみ)」を祭る出雲市小境町の佐香神社(別名・松尾神社)。毎年10月13日の例祭では、出雲杜氏(とうじ)や酒造関係者らがこれからの酒造りシーズンの安全を願い、出来たてのどぶろくをすする。

 佐香神社は、佐香社として出雲国風土記に登場。風土記には、佐香郷に全国の神々が集まって調理場の社を建てて酒などを造り、180日にわたり宴会を楽しんだ、と記されている。佐香は酒の古名で、佐香は日本酒発祥の地とされている。

 第65代の常松秀紀宮司(73)によると、現在の神社から200メートル東の小境川沿いにはかつて松の巨木が5本あり、スズメがここに落とした稲穂が発酵してどぶろくとなり、神々が集まったという。

 松尾神社とも呼ばれるようになったのは、600~1000年前とされ、「松尾」「佐香」の神社名が刻まれた二つの鳥居をくぐり、石段を登ると社殿が姿を現す。毎年、10月から2月にかけて全国の杜氏らが参拝に訪れ、上質な酒と酒造りを祈願する。

2013年10月1日 無断転載禁止