映画プロデューサーのささやかな日常(3)

映画「はじまりのみち」の一場面(©「はじまりのみち」製作委員会)
 「涙」の力と2人の監督の映画への愛

     市井の人々の営みに賛歌


 6月1日より、わたしがプロデュースした映画『はじまりのみち』が公開されました。

 この映画は『二十四の瞳』で有名な巨匠・木下恵介監督が、戦争末期に寝たきりの母をリヤカーに乗せて、険しい山を越え疎開させたという実話を映画化した作品です。

 加瀬亮さんが木下恵介役で主演を務め、その母に田中裕子さん、兄にユースケ・サンタマリアさんが出演します。宮﨑あおいさんがナレーションを担当しているのも話題となっています。

 原恵一さんがこの映画の監督を引き受けた大きな理由の一つは、敬愛する木下作品の名場面を本編の最後に組み込み、その魂をしっかり今の観客に伝えたい、ということだったそうです。

 われわれスタッフもそのアイデアに共感し、原作者や俳優、権利元の方々の協力を得ながら、全49作品の中から抽出した名場面の編集に挑むことになりました。

 『ニュー・シネマ・パラダイス』という映画をご覧になった方々には、あの有名なラストシーンとも通じる、圧倒的な映画への愛、そして、市井の人々の営みへの賛歌ともいうべき木下監督の「想(おも)い」を感じとっていただけるものと思います。

 原監督がひとつひとつの作品から丁寧に選び抜いたカットは、さまざまな「涙」でした。『二十四の瞳』での高峰秀子さんの喜びの涙、『永遠の人』での仲代達矢さんの愛憎入り交じった涙、岡田茉莉子さんの『香華』での恋人との別離の涙、田中絹代さん、大原麗子さんの息子との別れの涙。そのどれもが「誰かのために流した涙」でした。

 そして、今回出演する加瀬さんの悔し涙と、田中裕子さんの母としての慈愛に満ちた切ない涙……。原監督と木下監督が描き出した数々のシーンにあるのは、いつの時代も変わらず涙を流し続ける弱い人々の姿、そして愛する人のために涙を流す姿です。

 その涙は無力であり、ただ誰かに寄り添うだけのものかもしれませんが、実はこれほど力強いものはない-。

 映画『はじまりのみち』では、そんな木下監督が遺(のこ)したメッセージと、そのバトンを引き継ぎ本作を紡いだ原監督とわたしたちスタッフの新たな「決意」を感じていただければと思っています。

 (松竹映像本部 映画プロデューサー・石塚慶生、米子市出身)

2014年2月7日 無断転載禁止