映画プロデューサーのささやかな日常(6)

映画「武士の献立」の一場面(©2013「武士の献立」製作委員会)
 江戸時代のバツイチ 年上女房奮闘記

     妻の目線で家族を描く

 僕がプロデュースする次回作は、12月に公開される映画『武士の献立』です。本作は、『武士の家計簿「加賀藩御算用者」の幕末維新』という教養書を基に故森田芳光監督、堺雅人さんと仲間由紀恵さん主演で2011年に『武士の家計簿』として映画化された、加賀藩シリーズの第2弾。今回は、歴史豊かな加賀百万石の土地で独自の発達をみた加賀料理に着目し、加賀藩の料理方として仕えた舟木家という一族の物語に編みあげました。

 舟木家の二代目・伝内包早と三代目・安信は実在した人物で、新しい料理を生み出し、当時のレシピ集ともいえる「料理無言抄」を残しています。その書には鯛(たい)や紫茄子(なす)の焼きもの、前田利家が豊臣秀吉の天下統一を祝って振る舞ったとされるゴボウや里芋などをふんだんに使った「あつめ汁」など、おいしそうなレシピが詰まっていました。いかに当時の人々もグルメだったかが分かります。

 最初に、料理方の侍を主人公に据え、彼の成長を描く物語にすることに決まり、脚本家の柏田道夫さんを中心に、徹底的な史実リサーチを行うことから始まりました。

 ところが、それだけではお客さまに共感し、楽しんでいただける魅力的なドラマにならない、という大きな壁にぶつかりました。さらに打ち合わせを重ね、彼と家族に巻き起こる騒動や、それによる成長を際立たせるために、彼の妻の目線で描くことにしました。

 しかし、妻についての史実を調べたものの、資料はまったく発見できません。サムライを描いた映画は今まで数多くありますが、女性を主人公にした映画はほとんどない。たしかに、当時の女性は家からほとんど出ることなく、夫や家族のために働いていたからこそ、資料はあまり残っていないのです。

 結局、われわれが許される範囲の想像の中で物語を作ることにしました。映画とは、こうしてリアルと創作とをうまくブレンドするさじ加減によって、魅力的な作品へと近づけていくのです。

 できあがった設定は、包丁侍として料理の腕を振るった舟木家に嫁いだ年上女房・春。お春は舟木家に迎えられる前は、19歳で料理屋に嫁いだものの、1年で離縁され、藩の奥女中として仕えていた“バツイチ”…。

 現代のアラサー、アラフォー女性が直面している結婚観にも通じるテーマを盛り込み、夫を愛すること、家族と暮らすことの難しさと素晴らしさを妻の目線で語ることによって、一気にこの物語が回転し始めることになりました。

 脚本が完成後、さっそくオファーした直後に上戸彩さんがご結婚されるという奇跡のようなタイミングも後押しし、お春=上戸さんのベストキャスティングが実現したのです。

 (松竹映像本部 映画プロデューサー・石塚慶生、米子市出身)

2014年2月10日 無断転載禁止