映画プロデューサーのささやかな日常(8)

映画『ひまわりと子犬の7日間』での堺雅人さん(©2013「ひまわりと子犬の7日間」製作委員会)
 堺雅人さんの提案した「方言」の力

     豊かな感情より確かに

 先ごろ、ドラマ『半沢直樹』が視聴率42%(最終回、関東地区)という驚異的な数字で大ヒットしました。主人公の半沢を演じた堺雅人さんとは、今年3月に公開された映画『ひまわりと子犬の7日間』という作品でお仕事をさせていただきました。妻を事故で亡くした後、宮崎県にある保健所で働きながら2人の子どもを育てる父親役。ある犬の母子と出会ったことで、彼自身の人生も変わっていく様を演じていただきました。

 子育ても仕事も不器用で、ナイーブながら芯のある父親像。脚本を作り始めた段階から、堺さんに演じていただければきっと魅力的になると考えていました。出演をオファーすると、堺さんが映画の舞台の宮崎出身だったこともあり、快諾していただけました。

 準備稿を事前にお渡しし、渋谷にあるホテルの会議室で初めて会うことになったのですが、平松恵美子監督と僕たちプロデューサー3人は「彼から何を言われるだろうか?」と戦々恐々としながら到着を待っていました。

 現れた堺さんは軽やかな笑顔で、ポロシャツにチノパンといういたって普通のファッション。確かキャップもかぶっていらっしゃったように記憶しています。正直、「え? この人が?」というぐらい“芸能人オーラ”は感じませんでした(笑)。

 さて、打ち合わせは、いくぶんぎこちなくスタート。まずは僕たちから作品にかける意気込み、取材過程、どんなメッセージを込めたいかなどを伝えました。

 堺さんはうなずきながら真剣に聞いていらっしゃいましたが、こちらの話が一段落すると、口を開きました。「この人物は内面に抱えているものを決して口には出さず、行動するタイプなのは理解できるが、『宮崎県人』なので、もっと他人に遠慮した言葉を使うのではないか…」。人物像を深める、台詞(せりふ)に対する考察でした。

 その後、堺さんのご提案により、登場人物は全て宮崎弁で演技することに決定。このことにより、宮崎という土地を舞台にした本当の意味が際立つことになりました。脚本と演技に対するこの真摯(しんし)な提案のおかげで、地方の人々の豊かな感情をその土地の空気、人々のつながり方をもまとう独特の言葉で、より確かに表現することができたと思います。

 ささいなエピソードですが、堺さんの人となりを感じていただけたのではないでしょうか。堺さんは今後の日本映画界を背負って立つ、誰にも代え難い俳優になると確信しています。

 さて、お知らせです。いよいよ12月14日から『半沢直樹』にも出演された上戸彩さんが主演の映画『武士の献立』が公開されます。ぜひ、ご覧ください。

 (松竹映像本部 映画プロデューサー・石塚慶生、米子市出身)

2014年2月12日 無断転載禁止