仕事みてある記 奥深さに魅せられて

醸造工程をチェックする大石泰史さん=松江市黒田町、島根ビール
 島根ビールのブルワー
    大石泰史さん(松江市黒田町)


 「自分の手で島根に合ったビールを生み出したい」。大石泰史さん(34)は、ホップの香りが漂う発酵室(はっこうしつ)のたるを眺(なが)めながら、笑顔を見せた。島根県で唯一の地(じ)ビール製造会社の島根ビール(松江市黒田町)で、仕込みを担当する駆(か)け出しの「ブルワー」として地ビール造りに打ち込む。

 埼玉県出身。地ビールとの出合いは25歳の時、友人と九州を旅する途中、熊本県の飲食店で地ビールを飲んだのがきっかけ。おいしさはもとよりホップ、麦芽(ばくが)、酵母(こうぼ)、香り付けなど無数の組み合わせによって醸(かも)し出される地ビールの奥深さに取りつかれた。

 東京でイヤホンなど音響部品にかかわる仕事をしていたが、地ビールへの情熱が高まり「自分で自分の地ビールを作る」と2012年に一念発起(いちねんほっき)。知り合いの地ビール職人の紹介で、島根ビールで働くことになった。「学生時代に小泉八雲の作品を読んでいたので、松江には前々から興味を持っていた」と話す。

 当初は瓶詰(びんづ)めや掃除(そうじ)、30キロ近いたるの運搬(うんぱん)など、想像以上に肉体労働が多く、筋肉痛(きんにくつう)に悩まされる毎日。仕事に慣れ始めた2013年5月に念願(ねんがん)だったビールの仕込みに参加した。任されたのは毎年季節限定で販売されるビールで、同社の目玉商品の一つ。完成した時は「うれしさのあまり、大山に登って飲んだ」と振り返る。

 半面、実際に仕込みを担うようになって、ホップや麦芽の量、温度調整など、わずかなことで大きく味が変わる、ビール造りの繊細(せんさい)さと正面から向き合う。一つの発酵たるで醸造(じょうぞう)されるビールは約1500リットルにのぼる。「やり直しがきかない難しさがある。逆に挑戦のしがいがある」

 島根ビールの平均出荷量は年間70~80キロリットル。リピーターの定着や地ビール関連イベントが増えたことで、年々出荷量を伸ばしているという。特に昨年は出雲大社の遷宮で観光客が増えたため、出荷量は100キロリットルに達した。観光の盛り上がりを追い風に「自分が造った地ビールで島根を訪れるリピーターをさらに増やしていきたい」と話す。

2014年8月3日 無断転載禁止

こども新聞