鉄のまほろば 連載にあたって

日本独自の製鉄法・たたらの技術者が暮らした集落の「菅谷たたら山内」。地区内には国内で唯一の高殿(右奥)も現存し、貴重な歴史を伝えている=雲南市吉田町吉田
中国山地訪ね地域の誇り再確認

 今再び「たたら」が注目を集める。島根県奥出雲町の「たたら製鉄と棚田の文化的景観」が、中国地方初の「国の重要文化的景観」に選ばれた。世界で唯一たたらの炎をともす日刀保たたらがあるこの町には、土砂を再利用して造り上げた棚田、機能的に作られた集落、整備された山林など誇るべき景観がある。棚田では食味の良い仁多米が作られ、今も持続可能な地域経営が続く。

 雲南市吉田町では、国指定重要有形民俗文化財の菅谷たたら山内(さんない)で高殿が修復された。菅谷たたらの回りに密集する住宅は、中国山地の山間部に人を養う経済力があったことを物語る。

 そして石見もたたらの一大拠点だった。1887(明治20)年に邑智郡の鉄の生産量は仁多郡を上回ったとの記録がある。出雲市から江津市の沿岸部に多いたたら跡は、砂浜から採取したり、船で運んだりした砂鉄を原料に操業した。邑智郡や旧那賀郡から広島に鉄を運ぶ「鉄の道」も残る。

 たたらが地形に及ぼす影響は大きい。真砂(まさ)土に数%含まれる砂鉄を採取するために、山を切り崩す。奥出雲町や邑南町では、尾根を削ったり、砂鉄の採取後の大量の土砂を石垣を組んで引き込んだりして、山間部に耕地を造り上げてきた。

 千年以上かけてこの地域に住み続けた人々が、一つずつ、丁寧につくり上げてきた景観を訪ねる今回の企画は、地域の誇りを再確認する作業でもある。そして中国山地で行われてきた砂鉄採取、木炭製造、食料生産、製鉄と運搬という複合的な営みは、人口減少が続き、地方創生が叫ばれる現代の道しるべになるのではないか。そんな期待を胸に企画をスタートさせる。

2015年1月22日 無断転載禁止