(3)奥出雲・仁多米 鉄穴流し跡うまさ育む

船通山の麓にある追谷集落の鉄穴流し跡に開かれた棚田。地元住民が整備した追谷綿打公園の展望デッキから景観が一望できる=島根県奥出雲町竹崎の同集落
たたら製鉄を営んだ卜蔵家の本拠地・追谷集落には、原たたらの高殿跡近くにカツラの木と、明治期に大量の製鉄の成功を祝して建立した頌功石が残されている=島根県奥出雲町竹崎
 「炉から真っ赤な炎が上がっていた。たたらはえらいことをすると思った」。島根県奥出雲町竹崎の追谷集落の農業、落合伝一さん(73)は子どもの時に見た叢雲(むらくも)だたらの光景を覚えている。軍刀の需要のため操業していた叢雲だたらの元は追谷に本拠地を置いた江戸時代の鉄師・卜蔵家(ぼくらけ)の原たたらだ。近代製鉄に押され大正時代に鉄づくりをやめたのを、帝国製鉄が借りて終戦まで操業した。

 現在は35軒の追谷集落は、かつて米作りとともに「山子(やまこ)」と呼ばれた炭焼きで生計を立て、炭を卜蔵家に納めた。「たたらと棚田は地域の誇り。代々が命をつないできた」と落合さんは語る。

 昨年、同町の「たたら製鉄と棚田の文化的景観」が中国地方で初めて、国の重要文化的景観に選定されたのに合わせ、追谷自治会は追谷綿打公園を整備した。展望デッキからは、たたら製鉄の原料・砂鉄を採る鉄穴(かんな)流しで削られた棚田が一望でき、来訪者にたたらの歴史と文化を実感してもらう。

 選定を受け、落合さんら16軒は文化的景観の棚田で栽培した仁多米の新たなブランド名も考案中だ。昨年の米価値下がりの対策として、県外で独自に販路開拓を狙う。

 同町が重要文化的景観を目指した事前調査でユニークなのは、仁多米のおいしさの秘訣(ひけつ)に迫ったことだ。

 担当した東京農業大名誉教授の高橋悟さん(66)=大田市大屋町=は東京都内にある同大世田谷実験圃場(ほじょう)と奥出雲町の追谷、福頼両地区で栽培された米の食味試験を実施。両地区の米の食味値が同大の値を大きく上回った。さらに昼夜の温度差やミネラル豊富な水、仁多牛の完熟堆肥を生かした土づくりなどがうまさの要因と実証した。

 調査で奥出雲を巡った高橋さんは「棚田は全国各地にあるが、奥出雲の棚田は他地域とは全く異なる」とする。一般的な棚田は山奥でも米を作ろうと、水を落としやすい谷間に築くため「谷津田(やつだ)」と呼ばれ、日当たりが悪い。

 一方、奥出雲では砂鉄採取を目的に鉄穴流しをした跡が棚田になった。浜田市生まれで日本の鉄鋼研究の基礎を築いた俵国一博士は著書「古来の砂鉄製錬法(たたら吹製鉄法)」に冬でも効率的に鉄穴流しをするため、日当たりが良く雪の影響を受けにくい南向き斜面を選ぶと記す。

 鉄穴流しは丘陵の尾根上を削るため、「空田(そらだ)」と呼ばれる棚田が高い場所にでき、日当たりがよい。横田地区では、全体の3分の1以上に当たる535ヘクタールの水田が鉄穴流しで造られたという。

 それらの景観に高橋さんは、奥出雲の人々が江戸時代から営々と土地の風土を考え、知恵を出してきた積み重ねを見いだす。さらに鉄穴流しの効果として、山崩れを起こす不安定な真砂土が削られたため災害が少ないと指摘。「米がおいしくて、空気も景観も良く、安心して生活できる場所として地域の魅力を発信するのが大切だ」と説く。

2015年2月10日 無断転載禁止