(5)日刀保たたら(中) 先人の技と知恵息づく

炉に砂鉄を投入する村下。経験と勘を武器に見えざる炉内の状況を探りつつ作業が進む=島根県奥出雲町大呂、日刀保たたら
たたら操業に従事する故安部由蔵さん(左)と木原明さん。木原さんは安部さんを「炉内の状況を感じ取る動物的な勘があった」と語る=島根県奥出雲町大呂、日刀保たたら(1987年1月18日)
 島根県奥出雲町大呂の日刀保(日本美術刀剣保存協会)たたらでは、砂鉄と木炭を交互にくべ、燃やしていく。その工程は一見、単純な作業に見える。だが、操業中、炉内の状況は外から見えない。分析機器も用いない。どうやって日本刀の原料となる良質の玉鋼ができるのだろうか。

 2月4日から4日間行われた今年3度目の操業。高殿では、木原明さん(79)、渡部勝彦さん(76)の2人の村下(むらげ)(技師長)が舞い上がる炎の色や高さを見据え、炉の側面に開けたホド(送風孔)を鉄製の道具で突き孔内をのぞく。「たたらは、いかに炉内を安定させるかが大切」と木原さんが説く。

 玉鋼を含む■(金ヘンに母)(けら)は炉の底にでき、炉壁の土と反応しながらゆっくり外側に向かって成長する。砂鉄と炭を投入する場所や量、送風具合を微妙に加減していく。村下は五感を研ぎ澄ませて複合的に観察し、炉内の状況を感じ取る。

 炉内はいつ不安定になるか分からない。例えば、炉壁が溶けて砂鉄内の不純物をからめ取るノロ。不純物を除くため、炉外に排出するが、ノロは高温で炉内の温度を保つ役割を果たす。出し過ぎると温度が下がり支障を来す。操業の総責任者の村下は、事態を瞬時に判断し、次の手を打たなくてはいけない。

 村下は炎の力を味方に付けながら、3昼夜連続で操業する体力と精神力が欠かせない。山口県宇部市出身の木原さんは高校時代、全国大会に出場するなど相撲で培った心身が、礎となっている。

 木原さんの師は同町竹崎出身の安部由蔵さん(故人)。20歳前後でト蔵(ぼくら)家の村下となり、日刀保たたらの前身・靖国(やすくに)たたらでも村下として、戦中の操業を指揮した。木原さんは日立金属安来工場に入社。同社が日刀保たたらを支援し、1977年の日刀保の操業開始以降、木原さんは17年間、安部さんに学んだ。

 操業中、炉に耳をそばだてると砂鉄が溶ける「ジジッ、ジジッ」という音が聞こえる。「シジるように吹かんといけん」「炎の色が山吹色だと炉内が安定している」。ともに安部さんの教えだ。

 日刀保では現在、10人の村下養成員が研さんを重ねる。昨年、村下代行に昇格した堀尾薫さん(45)は「操業具合は常に変化し、毎回が初体験」とたたらの奥深さを挙げる。同町八川出身。「地元の人間として世界で唯一のたたらを引き継ぎたい。先人の思いを伝えていくのが使命」とし、操業の際、炭で黒くなった顔に生気がみなぎった。

 「たたらには千年を超す歴史の中で培われた先人の知恵とものづくりの本質がある」と木原さんが説く。その技と心が未来へと継承されていく。


クリック

 村下と村下養成員 日刀保たたらの操業は現在、国選定保存技術保持者の村下2人、村下養成員10人の態勢で行われる。養成員は、技術協力する日立金属安来工場などの社員や全国の刀鍛冶(かじ)の中から選ばれ、経験や技量に応じて上級、中級、初級に区分される。このうち3人は、炭焼きや砂鉄、釜土採取など通年で操業準備に携わる常駐勤務。経験豊富な養成員は村下代行(現在2人)として現場の統括役を務める。

2015年2月23日 無断転載禁止