(15)金屋子神社(上) 安全祈り はだし参り

たたら操業の無事と良鉄生産を念じ、はだしで歩を進める参加者=島根県奥出雲町大呂
全国の製鉄関係者から信仰を集める金屋子神社の拝殿=安来市広瀬町西比田
 4月21日午前6時。世界で唯一たたら製鉄を操業する島根県奥出雲町大呂の「日刀保(日本美術刀剣保存協会)たたら」から35人がはだしで歩き出した。製鉄の安全操業を祈る「はだし参り」の一行だ。目指すは峠を越えた10キロ先。製鉄の神、金屋子(かなやご)神を祭る安来市広瀬町西比田の金屋子神社だ。毎年春秋の例大祭に合わせて往復する。

 同たたらの村下(むらげ)(技師長)木原明さん(79)の呼び掛けで20年続く恒例行事。当初は同たたらの関係者が多かったが、今は日立金属安来工場(安来市)の幹部や和鋼博物館(同)の職員、木原さんの指導を受けて中国地方でたたら体験を行う団体などから、鉄の文化と技術を守る人々が集まる。

 国営備北丘陵公園(広島県庄原市)の奥井智裕管理センター長(51)は、毎年5月に行う「古代たたら鉄づくり体験」の成功を祈るため、職員3人と参加した。

 道中、岡山県新見市から参加した「備中国新見庄たたら研究会」の藤井勲会長(61)と意見を交わした。「たたらを若者に伝えるには」「市民をどう巻き込むか」-。奥井さんは「交流が広がり、勉強になる」と話した。

 木原村下の母校・宇部工業高校(山口県宇部市)からは伊藤一教諭(42)らが駆け付けた。同校は2年前からたたらを授業に取り入れた。一昼夜の体験で「子どものもの作りに対する姿勢が変わった」と話す。今春、体験した生徒の1人が日立金属安来工場に就職した。

 安部正哉(せいや)宮司(91)によると、明治時代まで各地の村下らが同神社にはだしで参り、境内にあった籠殿(こもりでん)で身を清め、良鉄の生産を祈った。当時の宮司は、金屋子神を信仰する各地のたたらを巡った。安部宮司は「技術的な情報を一番持ち、(良鉄をもたらす)神業(かみわざ)を授ける存在だった」とみる。

 砂鉄、木炭、釜土という自然の恵みから紡ぎ出すたたら製鉄は、今も未解明の部分が残る神秘の技術。江津市桜江町出身の民俗学者で、たたらを訪ね歩いた牛尾三千夫(みちお)(1907~86年)は、金屋子信仰が浸透した背景を「鈩(たたら)が永代鈩になって、その規模が大がかりになったために、失敗すればその損失もまた大きかった」(続美しい村「菅谷鈩と金屋子神」)と論考した。

 責任者の村下は、重圧を克服するため、はだし参りをして、願を掛けた。境内では今以上に人々が集い、鉄作りについて意見を交わしたかもしれない。

 往路を歩ききった参加者は、拝殿でお札を安部宮司から受け取り、それぞれの“たたら場”へと向かった。

2015年5月4日 無断転載禁止