映画プロデューサーのささやかな日常(26)

「わが母の記」で役所広司さん(左)と共演する樹木希林さん。出演依頼の手紙を書かせていただいた((c)「わが母の記」製作委員会)
 頭悩ます主役のキャスティング

     始まりはいつも「片想い」

 プロデューサーとして最も頭を悩ませる仕事の一つは、主役のキャスティングです。言うまでもなく、映画では、役に俳優さんがピッタリ当てはまるか、が最も重要。候補俳優の最近出演されたドラマやお芝居を見たり、知り合いのスタッフに撮影現場での話を聞いてみたりして研究します。

 ところが、おおむねお会いしたことのない人が多いため、想像力が大事です(笑)。役に重なる部分がどれだけあるか、または現在はイメージにない役柄でも、実際はやりこなす力があるか…など可能性も含めて考えるのが、難しくもあり面白いところでもあります。

 第1候補が決まった時点で事務所のマネージャーさんにご説明し、「口説く」ということになりますが、たいがいは人気俳優なわけですから、スケジュールが空いているケースはまれ。主演の方の体が空くのを待って撮影スケジュールを組んでも、泣く泣く諦めざるをえないこともあります。

 候補を決めるにあたっては、もう一つ大事な点があります。それは、テレビやCMで慣れ親しんだ人であること。まったく無名な俳優が主役だと、見る理由が一つ減ってしまうからです。とはいえ、単にたくさんテレビに出ている人を起用すればいいということでもありません。要は、観客の“見たいという期待値”がちょうど高まっている俳優さんが求められる、ということでしょうか。

 さらに、制作費を統括し、管理する立場としては、俳優のギャランティも検討材料になります。人によって映画1本あたり何百万から何億円(!)という幅があり、予算にはまらない俳優を起用することはできません。具体的に誰がいくら、なんて表があるわけではないので、過去に仕事をした身内のプロデューサーに聞くなどして予測していきます。主演した連ドラがヒットした俳優は次に出演する映画はいきなり値上がり、といったこともあるので、出演交渉の時期を見極めることも大事です。

 役にはまること、スケジュール、ギャラ、人となりなど、さまざまなポイントを研究、調査、予測しながら、キャスティングは進んでいきます。そして、あくまでもこちらはお願いする側。片想(おも)いのときもあれば両想いのときもあります。

 作品に興味はあるけど、いまひとつ腰が上がらない、といったニュアンスのときは、口説くための“ラブレター”を書くこともあります。実は以前、樹木希林さんにお手紙を書いたことがあります。一度は出演を断られたのですが、その後、1カ月近くたってからお電話いただき、トントン拍子で出演が決まったのです! そういう意味では、キャスティングは恋愛に似ているなぁ、とちょっと思ったりもするのです。

 (松竹映像本部 映画プロデューサー・石塚慶生、米子市出身)

2015年5月8日 無断転載禁止