アキのKEIルポ 優勝夢見た思い出の舞台

 ローラン・ギャロスのセンターコートに立つのは、2年ぶりのことだった。その時の対戦相手は、前年優勝者のラファエル・ナダル。言ってみれば、ナダルの名前で「入れてもらった」立場だった。

 では、初めてセンターコートに入ったのはいつだったのか――?

 英国人記者からのそんな問いに、世界5位の25歳は「これ、言っちゃまずいのかな…」と少しきまり悪そうに前置きをしてから、過ぎ去りし少年の日を振り返った。

 「僕が12か13歳の時。会場を訪れた時に、警備員がいなかったのでセンターコートに忍び込んで、いつの日かここで優勝することを夢見たんだ…」。

 今、彼はセンターコートに入るのに、ナダルの威光を必要とはしない。警備員の目を盗む必要もない。全仏オープンの2回戦。対戦相手は40位のベルッシ。錦織は自分の地位で、自分の名前で、かつての“夢舞台”に立ち、2時間22分後には、さりげなく勝利を持ち帰った。

 「正直、あまりセンターということは意識してなくて」。試合後、彼は言う。「特に浮いた気持ちもなかった。いろんな経験を得て、メンタルも強くなったと思います」。

 もはやセンターコートは、夢を見る場所ではない。その手で実現する場所だ。

 (フリーライター・内田暁)

2015年5月29日 無断転載禁止