覚醒 トップ10(1) 新コーチの指導で躍進

 テニス男子で松江市出身の錦織圭(日清食品)が、現行制度で日本男子初の世界トップ10入りを果たした。新コーチを迎えた今季は既にツアー2勝(通算5勝)を挙げ、四大大会に次ぐ格付けのマスターズ2大会でも4強入りや準優勝と躍進。17歳でのプロ転向以降、最も充実したシーズンを送っている24歳は、トップ5を次なる目標に掲げる。今季覚醒した要因や課題などについて、錦織を知る関係者に聞いた。


デ杯日本代表監督 植田 実氏
 デ杯監督に就任し、錦織を間近に見る機会が増えたが、錦織のたくましさは加速度を増している。もはやアジアのレベルで戦う選手ではない。勝てると思い、信じ抜く力はこれまでと比べものにならない。

 躍進の背景にあるのは、かつて全仏オープンを制したマイケル・チャン新コーチの存在だ。チャン氏が教科書通りではなく、トップ選手ならではの考えを伝え、錦織もきちんと受け止めている。

 コートを離れた場面でもチャン氏と意思疎通を図っている。例えば食事。以前からコーチを務めるダンテ・ボッティーニ氏はアルゼンチン出身で、食事の時間帯が根本的に日本人とは異なる。一方で、チャン氏はできる限り錦織と一緒に食事し、テニスに対する思いを共有している。

 技術面でもチャン氏は課題を明確に設定し、細部にわたって丁寧に指導しているようだ。

 今年1月の全豪オープン4回戦、ラファエル・ナダル(スペイン、世界1位)との試合では、錦織のアンフォーストエラー(不用意なミス)が目立ったが、準優勝した今月のマドリード・オープンではほとんどなかった。

 偶然、ミスが出なかったのではない。ラリーの中で、攻める場面と無理せず守る場面の判断力が格段に伸びてきた証拠と言える。

 マドリード・オープンでは、ナダルのほか、準決勝で撃破したダビド・フェレール(スペイン、世界5位)も錦織の圧力を受けているように感じた。これまでは錦織が圧力を受ける側だったが、今は相手の状態を冷静に見極めている。

 昨年から積み重ねてきた一つ一つが形になってきた。ただ、好調はいつまで続くか分からない。勝てる間に何らかの自信をつかんでほしい。

 さらにトップで勝負するには、ロジャー・フェデラー(スイス、世界4位)のように大きなけがをしない体に質を高める必要がある。体力面の底上げも重要だ。特に四大大会は5セットマッチの長丁場。最後まで思考能力を保てるかどうかは、結局は体力の有無にかかわってくる。

 錦織は近く始まる全仏オープンで世界中の注目を集めるだろう。序盤戦は体力を温存して勝ち上がってほしいが、3月のソニー・オープンはけがで準決勝を棄権し、マドリード・オープンもけがで決勝を途中棄権した。抱えているけがが今後に影響すると判断すれば、全仏は辞退する英断も選択肢の一つだ。


 うえだ・みのる びわこ成蹊スポーツ大教授。1982、86年のアジア大会で代表選手となり、89年からコーチ活動を開始。2004年アテネ五輪で代表監督を務めた。女子の国別対抗戦・フェド杯前代表監督を経て、12年から男子の国別対抗戦・デ杯の代表監督。北九州市出身。56歳。

2014年5月20日 無断転載禁止

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