覚醒 トップ10(5) 類いまれな研究心評価

錦織圭の元コーチ・杉山愛氏の母 杉山 芙沙子氏
 (錦織)圭が優勝した4月のバルセロナ・オープンでベスト8に入った時、「頑張りました」とめったにないメールが来た。

 圭には常に多くの人が連絡を入れており、大会期間中は普通、連絡はしない。だが、バルセロナでは返信できるほど精神的余裕があったのだろう。4強入りした時点で、優勝を確信できた。

 昨季もトップ10が見えていたが、入るなら瞬間的ではなく、トップ10にふさわしい実力をつけて入ってほしいと願っていた。その通りになった。

 圭のお母さん(恵理さん)とも話したが、やはりマイケル・チャン新コーチから得るものが大きかった。オンでもオフでも一人の人間として成熟しているチャン氏が、コート外での振る舞いも含めて圭を強くしてくれた。

 チャン氏の練習は本当に厳しいが、厳しさの中に込められた真の優しさを理解できる圭がいて、気分が良い日も悪い日も実行できる圭がいたのだと思う。

 自分は圭が低迷している時にコーチとなったが、言いづらいこともスランプを乗り越えるために言い切った。圭は受け流したり、めげたりせず、時には意見しながらコミュニケーションを取り合った。圭の理解力が抜群だからこそ、スランプを脱出できたのだと思う。

 チャン氏がコーチになって以降は、前に出るアグレッシブな姿勢が際立つ。以前は手だけで打つ場面もあったが、今は体全体でスイングしている。

 背中や股関節、臀部(でんぶ)など体の大きな部分を使っており、ボールの質が上がった。地面をしっかりと蹴り、スピードもスピン力もついている。

 五輪でメダリストの試合だけが感動するのではないように、劣勢でも奮闘する姿を見せるのがプロだ。今は自分自身を熱く、冷静に見ながらも、観客に満足感を与えるプレーができている。

 研究家の圭は、自分がコーチだった時も「このショットはノバク・ジョコビッチ(セルビア、世界2位)を参考にした」とフォアの打ち込み一つでも、目標を明確にしていた。この研究心は今後も忘れないだろう。圭の技術と人間性は、チャン氏と一緒にいる限り向上するはずだ。

 また、一流選手の人柄や考え方は、幼児期における父母とのコミュニケーションによるところが大きい。圭が人としても魅力的な真のトップアスリートになれたのは、恵まれた家庭環境にもある。

 ナンバーワンを目指す圭には「一人で見る夢は夢で終わるかもしれないけど、みんなで見る夢だから現実にしよう」と伝えたい。


 すぎやま・ふさこ スポーツ教育研究者。元シングルス世界8位、ダブルス同1位の杉山愛氏の母。1998年、神奈川県茅ケ崎市内にテニスアカデミーを設立し、校長を務める。愛氏の現役時代はコーチとしてもサポート。2009年には、けがで長期離脱した錦織圭のコーチを5カ月間務めた。横浜市出身。

2014年5月24日 無断転載禁止

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