アキのKEIルポ 目標の高み映す「勇断」

 グランドスラムの試合を戦わずして棄権するのは、初めてのことだった。「試合はできても、勝つことはできないだろう」、だから棄権を決めたのだと錦織は言う。

 彼がここで言う「勝つこと」とは、恐らく2回戦のみを指しているのではない。もっとその先…つまりはベスト8以上や、最終的に大会そのものをも“勝つこと”を視野に入れての発言だろう。

 コートに立つことに喜びを覚える時期など、とうに過ぎた。3回戦進出も、けがを悪化させるリスクに比べれば意味を持たない。初の戦前棄権とは、目指す地点の高みを映す勇断でもある。

 「勇気ある決断だと思います」。錦織の判断をそう評したのは、世界4位の実績を持つクルム伊達公子だ。「彼の状況を考えれば、2回戦で勝っても満足しない。準決勝や決勝を見据えた戦いでは、足に爆弾を抱えたままでは難しい」。かつて世界の頂点に肉薄した先達の言葉は、含蓄がある。

 棄権は悔しいと唇をかむ錦織だが、同時に「北米シリーズに向け良い準備をしていきたい」と前を向いた。「この先まだ何年もウィンブルドンは訪れる。だから大丈夫さ」と彼は言った。

 すぐに「次」がやってくる…それがテニスの難しさであり、そして、希望でもある。

 (フリーライター・内田暁)

2015年7月3日 無断転載禁止