論語(ろんご)で温故知新(おんこちしん)(28)


【訳(やく)】

 先生(孔子(こうし))が言われた。暴(あば)れる虎(とら)に素手(すで)で戦いを挑(いど)むとか、急な流れの、とてつもない大きな河(かわ)を、一人で泳いで渡(わた)ろうという、無茶(むちゃ)なことをする。「それで死んでもかまわない」というような者と、私はいっしょに行動できないな。


勇気と無茶(むちゃ) 勘違(かんちが)いしないように

 「勇気」と「無茶」は時として、勘違(かんちが)いされることがあります。それでは、この二つはよく似(に)ているけど、どこが違うかな?


 ◆勇気◆

 人間が社会で共同生活をしていくのに「勇気」は必要なものです。しかし、場合によっては、これが自分も他人も痛(いた)めつけることがあります。


 ◆リーダーの決断(けつだん)◆

 昔、北アルプスの一番高い山をめざして登山しました。頂上(ちょうじょう)まであと少しという所で、急に霧(きり)が濃(こ)くなり、前がよく見えません。切り立つ壁(かべ)や足場は雨で滑(すべ)りやすくなりました。少しでも足を滑らせたら百メートル以上谷底へ落ちて、命が危(あぶ)ないと思われます。そのような場面で、パーティー(登山隊(とざんたい))のリーダーが突然(とつぜん)「引き返そう」と言い出しました。

 他のパーティーは前へ前へと進みました。登山隊のメンバーは「せっかくここまで頑張(がんぱ)ったのに…」「リーダーは臆病(おくびょう)になったか?」など不満を言います。しかし、リーダーは頑(がん)として引き返しを主張(しゅちょう)しました。それを見ていたある人がそっとつぶやきました。「これが本当の勇気だな」と。そして、明くる日のニュースで、山の遭難(そうなん)があったことを知りました。


 ◆思いやる真心◆

 勇ましいばかりが勇気ではないということを、この時ほど身にしみて学んだことはありません。今にして思えば、この時のリーダーは人を思いやる真心(仁(じん))に立つ決断をしたのだと思います。自分本位(じぶんほんい)(じこちゅう)な気持ちや、無茶な蛮勇(ばんゆう)ではなく、思いやりの心は先を見通す確(たし)かな知恵(ちえ)と、本当の勇気があってこそですね。

  (私塾(しじゅく)「尚風館(しょうふうかん)」講師・小倉雅介(おぐらまさすけ))

2015年11月25日 無断転載禁止

こども新聞