(72)石正美術館の天井画(浜田)

石正美術館の塔に描かれた天井画
 思い一つに描き上げる

 浜田市三隅町古市場の石正美術館の一角に、高さ約14メートルの塔がある。47段のらせん階段を上がりきると、金箔(きんぱく)が貼られたきらびやかな天井画が眼前に迫る。同館に作品が所蔵され、昨年9月に95歳で亡くなった日本画家、石本正氏の「住民と一緒に天井画を描き、古里の石見から独自の美術文化を発信したい」という願いが結実した大作だ。

 天井画は、縦横各4メートルの四角すい部分を中心に藤棚が描かれ、茶色のつるや緑の葉が頭上を覆い尽くす。四方に窓があり、時間帯や天候によって光の具合で表情を変え、見る人を飽きさせることはない。

 構想が持ち上がったのは、同館が開館した2001年。石本氏が描いた下絵を基に、09年8~10月の1期と10年8~9月の2期に分けて制作が進められた。石本氏が指導していた京都造形芸術大学(京都市)の学生をはじめ、旧三隅町の住民や全国から参加したボランティアの延べ857人が筆を取った。

 当初の計画では、石本氏が仕上げの筆を入れて完成する予定だった。しかし、絵を見た石本氏は出来栄えに感動し、「私が手を入れる必要はない。本当にやって良かったな。おおきに」と話したという。

 「自由な発想で制作に取り組んでほしい」と常々、話していた石本氏。じっくり絵を見ると、その思いが端々に生きていることが分かる。つるを伝う尺取り虫やチョウチョウ、子どもが描いたウルトラマン…。制作に携わった人が思い思いに描いた「遊び」を探すのも楽しみの一つだ。

 塔は防火用に造られた建物のため、天井画は通常、非公開だが、申請すれば見学できる。同館の上田優里学芸員は「石本氏が残した地域への思いを見てもらいたい」と話す。

2016年1月21日 無断転載禁止