レッツ連歌(下房桃菴)・1月28日付

挿絵・麦倉うさぎ
 思いもよらず猿と出くわし

初日の出待ちわびている山の上 (大田)杉原サミヨ

羊くんバトン渡して仰天し   (益田)吉川 洋子

ポケットを探してみるがティッシュだけ
               (雲南)錦織 博子

追い返し追い返しするリンゴ園 (松江)野津 重夫

爺(じい)ちゃんは自慢の大根置いて行き
               (出雲)石飛 富夫

八年もかけて育てた木の下で  (松江)植田 延裕

カニさんは涙ながらに語り出し (松江)三島 啓克

慌てずに目を合わせずに逃げましょう
               (松江)持田 高行

トンネルを抜けるとそこは過疎の村
               (松江)佐々木滋子

生きる知恵彫り込んである東照宮(松江)岩田 正之

綽名(あだな)しか思い出せない同級生
               (浜田)松井 鏡子

幸先がいいととっさに出すスマホ(松江)加茂 京子

山道をしぐれしぐれと案じつつ (益田)石田 三章

IターンしてみたけれどUターン(浜田)三隅  彰

コノホシノナマエハナントイイマスカ
               (美郷)芦矢 敦子

まだ爪も磨いていないどうしよう(江津)岡本美津子

カニの子が親の仇(かたき)と睨(にら)みつけ
               (江津)星野 礼佑

箱付きで百万もするブリキ製  (松江)水野貴美子

昼日中通行止めの9号線    (益田)竹内 良子

臆病なポチはあわてて逃げ帰り (飯南)塩田美代子

泣きながら走って帰るランドセル(浜田)勝田  艶

羽織着て社務所で巫女(みこ)と札を売り
               (江津)井原 芳政

きびだんごたった一つで家来にし(出雲)原  陽子

あっけなく明智光秀敗れたり  (松江)森  笑子

中腰で後ずさりする露天風呂  (益田)石川アキオ

よく見ればお前さんではないかいな
               (松江)田中 堂太


           ◇

 「山道をしぐれしぐれ」は、ちょっと分かりづらいかもしれません。ご説明しておきましょう。

 ある俳人があるとき、ある山道でしぐれに会ったのですね。俳人ですから、これを句にしてやろうと、「しぐれ、しぐれ」とつぶやきながら歩くのですが、なかなかいい案が浮かばない。とかくするうち、ふと目にとまった一匹の猿! 寒そうに震えております。これだ、と閃(ひらめ)いて、そして、そのときできたのが、歴史に残るあの名句だったのだと、ざっとこういうお話なのです。

 私の説明も、まだ分かりづらいでしょうか。そうかもしれません。実をいえば私は、あえて不親切に書いたのです。というのも、作者の三章さんが、せっかく苦心して不親切な表現をなさっているのに、脇からよけいなチョッカイを出すわけにはいきませんので…。

 そもそも、すぐれた表現というのは、しばしば、ある意味、不親切で分かりづらいものなのです。もっとも、これは、独りよがりな表現で他人に通じないというのとは、もちろん、まったくちがいます。ここのところ、おまちがえなきよう。念のため。

 別の例をあげれば、「泣きながら走って帰るランドセル」―。

 ランドセルが、泣いたり走ったりするわけはありません。そうするのは小学生。その小学生のことを「ランドセル」と表現したのですね。「赤ずきん」ちゃんみたいなものです。こういう技法を「換喩」といいます。

 そんなもってまわった言いかたをしないで、小学生なら「小学生」とすなおに言うほうが、作者も楽だし、読者にも分かりよい。でも、それじゃ表現に深みがない。でしょう?

 艶さんの秀作と私の駄作と、今回もじっくり読み比べてみてください。「レッツ」のレベルは高いのです。

           ◇

 次は、今日の入選句を前句に、レベルの高い七七を付けてください。

  (島根大学名誉教授)

2016年1月28日 無断転載禁止

こども新聞